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◇◇◇ 真夜中の再会 ◇◇◇

 

 人と触れ合うのは怖ろしい。

 声を上げるのも、顔を見られるのも、この身体に触れられるのも、何もかも怖い。

 何一つ、僕は、僕を肯定し得るものを見いだしたことがなかった。

 与えられるものをただ羨み、妬むだけの自分の弱さが、心底、憎いと思っていた。

 だから彼が僕のどこに欲を覚えたのかも知らない。

 人に触れることを望まれるような魅力が、自分に備わっていると、僕は考えたことがなかった。

 

 彼は、僕の名前を呼んでくれる。

 僕を、僕として認めてくれる。

 僕という個人が、彼の前に立つと、はっきりと出来上がる。

 それは産まれて始めてのことだった。

 自分は例えるなら森の中の木の一本のようなもの、そこにあってもなくても誰も気付かないものだと思っていたのに、本当はそうじゃなかった。 

 僕は、生きて、呼吸をしていた。ここに立っていた。

 あらゆる欲を持つことの出来る、一人の人間だった。

 それを知った事で、僕はいっそう苦しくなったけれど、でも喜びもあった。

『自分』が出来て、僕は、ようやく様々なことをまるで生まれたての獣の仔がよろけ立ち上がるようなおぼつかなさで覚え始めたのだ。

 彼への、恋は、その中で一番苦しく、美しく、儚く、まっさらなものだったと思う。

                     《空白の日》






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