わりと愛








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◆◆◆真〈まこと〉◆◆◆



 鬱陶しく額に掛かった髪を無意識に掻き上げて、ふと、夏前にばっさりと潔く切ったはずのそれがいつの間にか随分と伸びていたことに気がついた。

 それも道理で、気付けばもう冬も間近だ。

 まだカレンダーの上でこそ秋と言っていい頃だったが、日によってはせっかちな木枯らしが吹き、山茶花はとうに白い花を咲かせている。

 去年まで枯葉の好き放題に散るままだった庭は綺麗に掃き清められ、庭の真ん中ではぱちぱちと赤い炎が爆ぜていた。

 銀色の灯油缶の中から舌を伸ばして踊る炎を、この家の居候のさくらという少年が一心に眺め、時折枯葉や枯れ枝をくべている。

 その回りでは焚き火に興味津々の茶々丸が興奮気味にくるくると回り、鼻面を近づけては東乃に怒られていた。

 事務所ではまだ仕事中だというのにあのくつろぎようは一体どうしたことか。

 苛立ちについ手が滑ったらしい。

 ミスを告げるエラー音がパソコンから響き、思わず狐原は背もたれに背を預けて仰け反った。

「あぁ……肩凝った」

「………珍しいな。あんたがぼやくなんて」

 やけくそ気味に呟いた声に答えが返って、今この事務所にもう一人住人がいたことをようよう思い出す。

「あぁ……イチ。どうだ進み具合は」

「まだ半分だ。もっと早く進めた方が良いか?」

「いいや。ゆっくりでかまわない。ミスの無いように頼む」

「わかった」

 やはりこの家の居候であるイチという少年の方が、この家の主兼このなんでも屋の所長よりもよほど頼りになる。

 ここ一月ほどでつくづくそれを思い知らされて、狐原は恨みがましく楽しげに枯れ枝を折っている男を見やった。

「……イチ」

「なんだ?」

「お前いっそ、この事務所の社員にならないか……いやなんならあの男を首にして所長でも、ああいや所長はまずいか未成年だからな。オレが所長でお前が副所長ってことでもいいな」

「………あんた、ほんと、疲れてるんだね」

 呆れたようなイチの口調にどれだけ詮無いことを言ったのか思い知らされて思わず狐原はキーボードの上に倒れ込む。

 途端にエラー音が鳴ってさらに神経を逆撫でした。

「ちょっと休めば?コーヒー淹れてやるよ」

「ああ、頼む」

 細い背がキッチンに立つ。

 それを見るとも無しに見送ってから、変わったなと思う。

 この家も、明里も、そして彼等二人も。

 イチと、さくらがこの屋敷に住むようになってからまだ半年にもならない。ささやかな遠慮と気遣い、戸惑いは残っているけれど、それは時が解決してくれるだろう。

 良いことだ。

 ここに明里が住み、そして狐原が通うばかりだった日々は、まだついこの間のことだ。この屋敷に住むのは明里とそして彼がもらったり拾ったりした犬と猫だけだった。当然使わない部屋も多く、仕事の忙しさを理由にものぐさな家主は空気を通すこともしていなかった。

 ただ広いばかりでどこか空疎な屋敷に、人が住むに相応しい空間というものはあるのだとしみじみ感じたものだ。

 不釣り合いなものは人を疲弊させる。

 明里のような男に、それは苦痛だっただろう。

 彼は本来、人の中に身を置くのを好む人間だ。人や、人の傍らにいる生き物と触れ合い、情を分け合って、穏やかに過ごすのが似合っている。

 それをねじ曲げたのは環境で、狐原はその過去を思いだす度じわじわと腑〈はらわた〉を灼くような怒りを覚えた。

 血縁、という楔が狐原にはないので、明里やその兄のように複雑な感情を抱くことなく思う様彼等の父親を嫌悪することが出来る。

 ある意味で、狐原も彼に多大なる迷惑を被ったのだから。

「まったく……」

 ちっ、と舌を打って狐原はエクセルの画面を保存すると、さっさとパソコンを落とした。今日はもう仕事にならない。

 自営業の特権だ、外の仕事も入っていないし所長も遊んでいる。苛立ちがやまない今日くらいは早退と言うことにして仕事をさぼってしまってもかまわないだろう。

 コーヒーを淹れて帰ってきたイチが落ちたパソコンを見て小首を傾げる。

「今日はやめだ、やめ。イチ、お前ももういいぞ。夜のバイトに備えて休んどけ」

「……いいかげんだな」

「いいだろ、たまには。いつも怠け者の所長に代わって馬車馬のように働いてるんだ」

「まぁ……そりゃそうだけどね」

 ソファに沈みこむと目の前にカップが置かれる気配がして、眼を閉じたまま狐原はありがとう、と言う。

「具合が悪いならどこかの部屋で寝れば?布団、敷くか?」

 イチの言葉に微かに笑う。

 独りで生きてきたという少年は、こんな風に、時折とても優しい。優しすぎるほどだ。

 気遣うばかりの彼は自分のことに無頓着だ。

 だからこそ、気を使いすぎるくらいの明里が傍についているのが良いのだろう。割れ鍋に綴じ蓋とは良く言ったもの、人にはそれぞれに相応しい相手が必ずいるのだとそう思う。

「大丈夫だ。……寝不足なのはお前だろ、イチ」

「え?」

「珍しく瞼が閉じそうだったろ。明里に無茶されたのか?」

 薄目で伺えばいつも無表情を崩さない顔が微かに赤く染まっている。この家に来たときよりも少しずつ表情が増えていると思う。

 それもまた、良いことだ。

 ほんの数ヶ月前に起きた事件のあとから、イチは少しずつ変わっているように見える。いいや、変わろうと努力しているように見える。

 自分を開こうとする努力はぎこちなく、まだほんのささやかなものだったけれど、明里も気付いているだろう。

 ちゃんと眼を開き、狐原はコーヒーに口を付ける。

「仕事は終わったことだし、午後はどうするかな。イチ、庭の石焼き芋に加わるか?」

「………寒いから厭だ」

「焚き火の周りは暖かいだろう」

 どうやら寒いのが苦手らしいイチをつついていると、不意に、廊下からけたたましい足音。まさかと眉を顰めた途端、甲高い声が響き渡った。

「キツネ、キツネ!いるんでしょ、さっさと返事しなさいよッ!」

 イチが警戒した顔をして素早く振り返る。

 思わず狐原は倒れてソファに懐いた。

「うるさいのがきやがった………」

「………知り合いか?」

「……………」

 バタン、と事務所のドアが開く。当然ノックも無しだ。

「ちょっと、早く返事しなさいって言ってるじゃない!可愛いあたしが来たのに無視するってどういうこと!?」

 きんきんと少女特有の甲高い声が耳に刺さって、思わず狐原は呻く。

「………イチ。オレはいないって言ってくれ」

「もう無理だと思うけど」

「ちょっとキツネ!!聞いてるの!?」

 喚き散らしながらそれこそ狐のようにきりきりと眼をつり上げた少女がつかつかと事務所に踏み入ってくる。

 最早逃れようがないと観念して、狐原は返事をした。

「ああ、ああ聞いてるっつの。うるさく喚くな真〈まこと〉。つうかキツネって呼ぶなって言ったろ。狐原さん、といえ十二歳。オレはお前より倍以上年長だ、敬え」

「じゃあ今からおじさんって呼んであげるわよ!年功序列がなんぼのモンよ、あたし戌年だけどあたしと同じ戌年で二周りも三周りも違うおじさんがお嬢様ッつって傅〈かしず〉くんだからね!?」

「傅くとか言うな……この馬鹿娘が」

「馬鹿っていったーーー!!」

 うわあん、と今度は向かいのソファに突っ伏してわざとらしい泣き真似を始める少女の勢いを止める手立ても気力もなく、狐原は最早一歩引いて成り行きを見守っているイチに紅茶、と言った。

「淹れてやってくれ……」

「わかった」

 これ幸いとばかりにイチはキッチンに消える。

「あら今気付いたけど誰あの男の子?」

 がばっと顔をあげた真が興味津々と言った様子でキッチンの方をのぞき見る。

 泣き真似は本当に真似だけだったらしくその猫のように整ったアーモンド形の眼はさっぱりと乾いていて、思わず狐原は手を伸ばしてその後頭部をはたいた。

「いたっ!なにするのよもおっ!」

「やかましい。お前がわざとらしい泣き真似なんぞするからだ」

「いいじゃない、涙は女の武器なんだから!」

「せめてバストがアルファベットをつけて呼べるサイズになってから言えそういうことは」

「ひ、ひどーーーい!セクハラセクハラ!セクハラキツネッ!」

「…………………ほんっとうにやかましいなお前は…………」

 髪こそ多少長く伸ばしているものの、少女特有の丸みがいまいち見当たらない真は昨今の長髪流行りでいまだ少年と見間違えられる事が多いらしい。

 女のプライドと口先ばかりが発達しているので当然間違えた相手は罵詈雑言を浴びせられることになる。

 きゃんきゃんと真が喚いている間にイチが紅茶を淹れてきて、そのままさっさと逃げようとするところを彼女にしっかと捕まえられる。

「ね、ね!誰あなた?ここのバイト?いつから来てるの?名前なんていうの?もう狐原、こんな格好良い子が来てるんだったら早く教えてくれなきゃ!」

「………お前、なんも聞いてないのか?」

 イチの腕を捕まえながら嬉々として質問をする少女に、何とはなしに悪い予感を覚えて狐原は聞いてみる。

「なにを?」

「やっぱりか………」

 どうやらあの男は騒ぎを予測して、いずれ必ず真が訪れるだろうこっち側に下駄を預けたらしい。眉間にしわを寄せて、狐原は喉の奥で唸った。

「………あのな、真」

「うん」

「そいつはイチ。あと一人、庭にさくらっていう少年がいる。いっとくが二人ともお前より年上だ。敬え」

「ばっかみたい。年上だってだけで尊敬なんて出来ないわよ。で?」

「………お前な……まあ正論だが。イチとさくらは、この家で暮らしてるんだ」

 少女がきょとんとした顔をする。そうして黙ってさえいれば、十分可愛らしいのだが。

「遊びに来てるの?」

「違う。七月頃から、二人は、明里とこの家で同居してる」

「ええ?あたしが暫く来てない間になんでそんな事になってるの。……あ、もしかして親戚とか?あたしとも血縁なの?」

「違う。血の繋がりは全くない。イチとさくらは孤児で、明里が引き取ったんだ。……名目上は」

「ええ?」

 途端に真が不機嫌な顔をする。もう何ヶ月も一人蚊帳の外だったのが不満なのだろう。

「なに、あたしだけ知らなかったって事?お父さんも知ってたの?」 

「もちろん。……ついでに言えば」

「うん」

「イチは明里の恋人だ」

 眉を寄せるイチに気付いたが、気にせず先を続ける。

「出来たてでラブラブ熱愛中だから邪魔はするなよ」

 暫しの沈黙。

 この後なにが来るかがわかりきっているので狐原はさっさと耳を押さえる。イチにも言っておいてやれば良かったかと思ったが遅かった。

「えええええーーーーーーーッッッ!!!」

 

 屋敷の屋根をつんざくような、甲高い、少女の驚愕の声が響き渡った。

 










 

「イチ、狐原ー。芋が焼けた………あれ?」

 勝手口から入ってきた明里がソファに突っ伏している来訪者に気付く。

「真じゃないか。いつ来たんだ?」

「あの喧しい声に気付いてなかったのかてめぇは……なんでもいい、その声を止めてくれ」

「って言われても……真、真?どうしたんだ?」

 明里が肩を揺すると、少女ががばっと起き上がる。その目元は今度こそ涙に濡れていた。

「ちょっと、明里ッ!!」

「はい?」

「そ、その男の子が明里の恋人って、ほんとうッ!?」

 さっさと狐原が座っているソファに避難して、これ以上ない仏頂面をしているイチを真がはっしと指差した。

「人を指差すのはお行儀が悪いよ、真。そう、イチはオレの恋人だよ」

「……ッ」

 臆面もなく幸せそうな顔をして言い切った明里に、真が息を呑む。

「……ひどいッ!」

「ええ?」

「ひどい、ひどーーーいッ!!あたしのことお嫁さんにもらってくれるって約束はどうなったの!?」

「そりゃあお前が五歳の頃の冗談半分の口約束だし第一日本は三親等以内は結婚できない」

 どこまでもエスカレートしそうな少女の勢いにとどめを刺すため、狐原が割ってはいる。

「第一んなこた明里に一途になってからいいやがれ。今日だって大方振られたとか言って泣きに来たんだろう」

「………ぅぅ……」

 どうやら図星だったらしく、真が恨めしげな眼をして狐原を睨む。

「ほらほら、愚痴なら聞いてやるから明里とイチにあたんな。どうしたんだ?」

「……なによぅっ、あたしを振ったくせにっ!第一男同士じゃない、立派に女のあたしよりどこが良いって言うの!?」

「お前が立派に女かどうかはともかくとして、まぁ男同士だって事をおおっぴらに指摘できるヤツがお前以外いないってのは確かに大問題だな………」

「キツネにそんなこと言われたくないわよッ!あんただって同じ穴の狢じゃないの!」

「……………前々から思ってたんだがお前ほんとに語彙が豊富だよな………」

 同じ穴の狢、とイチが呟いたのを真は聞き逃さなかった。

 止める間もなくまくし立てる。

「そうよッ!キツネはね、あたしのお父さんの情人〈イロ〉なんだからね!?」

「………情人?」

「そうよっ!朱雀会若頭っていったらこの辺りで知らないヤクザはいないんだから!!」

「真っ」

 明里が慌てた顔をして真を止めようと手を伸ばす。

 しかしここまで来てしまった以上止めることは不可能だ。

 隠していたわけではなかったが特別吹聴したいことでもなく、狐原は思わず明後日の方向を向いてため息をつく。

 その耳に、ドカドカと廊下をけたたましく歩く足音が聞こえて、案の定だなと思う。

「………狐原……あんた」

 イチの珍しく呆然としたような口調。 

 バン、とけたたましく事務所の扉が開く。

「祐一、明里!!真はいるか!?」

 なんて趣味が悪いんだよ、と呟いたイチの言葉に思わず胸中でまったくだと頷いてしまう。

 息せき切った朱雀会若頭、ゆくゆくは鳳組組長と目される筋金入りのヤクザ東乃鴻也がほっぺたにに真っ赤な痕を付けて立っていた。

 

 











「ったく……真、外出するなら若いのを一人連れて行けと言ってるだろう」

「いやっ!あんなのと一緒じゃ目立つじゃない!!」

 何故こういうことになったのかと狐原は頭痛がし始めた頭を押さえて呻く。

 今日は早めに仕事を切り上げて、だらだらすごそうと思っていたはずなのだ。

 それがどうしてこの人数で屯す事になっているのか。

 事務所兼応接室の筈のこの部屋は他に洋間のリビングがないせいでどうにも居間として使われることが多い。

 向かい合わせのソファの片側には頬に真っ赤な平手の痕を付けた鴻也と人が集まって楽しげな明里、もう片側には狐原とその腕にしがみついた真、それにイチとさくらが座っている。

 真ん中のテーブルにはほくほくと焼き上がった焼き芋が積まれていた。

 ぽっくりと口を開けた黄色い色が美味しそうだ。

「……どうしてこの家は人が来ると動物まで寄り集まってきやがるんだ」

 足元に擦りついたペン太を邪険に払おうとしてひらりと避けられ、鴻也は忌々しげに舌打ちをする。

「ここがそいつらの家だからに決まってるだろ。いっとくが邪魔なのはお前の方だぞ」

「いいじゃねぇか別に弟の家に遊びに来たってよ。寄るな、猫!スーツに毛が付くだろうが」

「ペン太の毛は黒いから平気だろう」

「そう言う問題じゃねぇよ!」

 ぽんぽんと言い争う狐原と鴻也を、さくらが一番遠く離れたイチの隣からそうっと伺っている。鴻也の粗暴さにまだ慣れないらしい。

 苛々とした仕草で煙草を取り出した鴻也の手を、狐原ははたき落とした。

「イテッ!なにすんだ、祐一!」

「ここは禁煙だ。灰皿がないだろうが」

「はぁ?この間まではあっただろ」

「禁煙にしたんだ、あの灰皿が壊れたからな。言っておくがこの家で一本でも吸ったら叩き出して出入り禁止にするぞ」

 壊れたのではなく本当は逆上のあまり明里に投げつけて狐原が叩き割ったのだが、それは言わずにおく。

 しぶしぶ煙草を仕舞った鴻也が、じろっとイチとさくらを睨みつけた。

「…ったく………小動物ばっかり集まりやがって。おい、真。帰るぞ」

「やだっ」

「やだじゃねぇ。こちとら仕事ほっぽり出して来てンだ、わがままは聞けねぇぞ」

「やだやだっ!父さん一人で帰ればいいじゃない、あたしはもうちょっと……ううん、ずっとここにいる!こっちの家で暮らすもん!!」

 ぎゅうっと狐原の腕にしがみついたまま真が喚き散らす。

「……なにが不満なんだ。オレをひっぱたいて収まりがついたんじゃねぇのか?」

「収まりってなによッ!あ、あれは父さんがあんまりひどいこと言うからだもん!……絶対かえんないからね!!」

 綺麗な形をした眼が潤んでいるのを見て、これは処置無しだなと狐原は思う。気性のよく似た親子は良くこうした衝突をして、明里の家に転がり込んでくるのは何もこれが始めてではないのだ。

「おい、明里」

「うん。兄さん、真、うちで預かるよ」

「あぁ?」

「いいかな?イチ、さくら」

 同意を求められて少し表情を揺らしたイチが、さくらを伺ってから返事を返す。

「……ああ。あんたの家だろう」

「ありがとうな。じゃあ、そういうことで」

「なにがそう言うことで、だ……ったく」

 しょうがねぇな、と忌々しげに言って鴻也が立ち上がる。

「じゃあ、明里。暫くその馬鹿娘をあずかっといてくれ。色々片づいたら迎えに来るからよ」

「もう帰るのか?」

「ああ。言ったろ、仕事抜けて来てンだ。真、我が儘ばっかり言うんじゃねぇぞ」

 べぇ、と舌を出した真にひらひら手を振って、鴻也は来たときと同じようにあっという間に去っていった。

 図体のでかい男が一人抜けると途端に部屋の密度が薄くなる気がする。いちいち存在が威圧的なんだあいつは、と胸中で呟くと真がくっついている方の腕を揺すった。

「おら、真。暫く泊まって良いってお許しが出たんだからさっさと機嫌直せ」

「………んー」

「ほら、芋喰えよ。好きだろ」

「そうそう。丁度いいくらいに冷めたんじゃないかな。ほら、さくら、イチも」

 まだホイルにくるまれている分を明里が手にとって剥き、大きなそれをぱくりと二つに割ってイチとさくらに手渡す。

「あたしもとって」

「手があるんだから自分でとれよ」

 一言言いつつそれでも焦げたアルミホイルを剥いて渡してやると、真が嬉しそうに焼き芋にかじり付く。

 まったく人騒がせな親子だ。

 ため息をついて、狐原もぽっくりと黄金色をした芋を齧った。

 







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