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 掘りだした鉱石を下ろすための大通りをハイカに乗って駆ける。前に座らせたウルは前のめりで必死に鬣にしがみつきながらアルフェサーの状況を説明してくれた。

「あ、新しい坑道を……掘ってたんだって…ッ」

 広い道はさすがに走りやすい。今は行き交う男達の姿もない。皆、アルフェサーに行っているのかも知れない。事故が起きたときだけは鉱山同士助け合うものだ。

「ま、前の太い坑道が……もう、なにも出なくなって、あたらしい道を掘るのに……ハッパで」

「ハッパ?」

「か、火薬のこと…うわっ」

「舌を噛むから、もういいです。ウル」

 手綱で首を叩くとハイカはいっそう速く走りだした。体力のある、本当に良い馬だ。

 なるほど、と思う。以前アルフェサーを訊ねたとき山師の森羅が所長に言っていた。掘り尽くした、というのはそのことではなかったか。

 岩盤を割るためには火薬を使わなければならない。

 そして火薬を使った後は、一番、落盤事故が起きやすい時なのだ。

 ハイカに乗って入れない場所からはウルに手綱を渡し、リベルテは先を急いだ。

 じきに留番所が見え、リベルテを待っていたとおぼしき男が大きく手を振った。

「先生!」

「遅くなりました。状況は?」

「いや、ここではちょっと。とにかく連れてくるように言われてんだ」

 

 アルフェサーの坑道近くは人でごった返していた。

 森羅を見つけて急いで駆け寄る。

「教授。無事だったんですね。中に人は?」

「ああ。いる。何人か埋まっているようだ」

「………」

 森羅の頬も煤で汚れていた。

 さっきまで坑道に潜っていたのだろう。

「まだ誰も出てきてないんですか」

「そのようだな。落盤したあたりで働いていたのは数人だが……後から、捜索に何人か入っていった」

「……そうですか」

 群がる男達の視線の先では、ぽっかりと暗い坑道が口を開けている。

 そこは人を呑んだまましんと静まりかえり、誰かが出てくる様子もない。リベルテは臍を咬んだ。

 患者がいなければ、医師にはどうすることも出来ない。

「また落盤する危険性はあるんですか」

「さっきのが相当大きかったからな。あれで終わりだと思うが」

 だから捜索も入れたんだ、と言うのにリベルテは大きく頷いた。

「中の坑道地図はありますか」

「あるが。どうするんだ、先生」

「僕も入ります」

「へえ」

 白皙の顔に面白そうなものを見つけたという表情を浮かべて、森羅が地図を取り出す。

「ここで待っていればいいのに」

「間に合わないかも知れません」

「落盤が起こったらどうする?」

「僕は鉱山のことは何も知りませんから。起きないと言った、教授の言葉を信じます」

「……まいったね」

 にやりと森羅が笑った。

「その意気や。私の言葉を信じるんだね?」

「はい」

「本当は、言わないことにしているんだ。先のことは。ただ、先生のことは気に入ったから、一度だけ教えてあげよう。落盤はもう、今日は起きない」

「はい」

 坑道図を開き、中を確認する。森羅の白い指先が一本の道を指した。

「ここで起きた」

「わかりました」

 手渡された洋燈を灯し、リベルテは、坑道の闇の中にまっすぐ歩き出した。

 

 





















 

 白衣に包まれた背が闇に飲まれて、すぐに森羅は自分を呼ぶ声を聞いた。

 振り返ると金の髪の監察官が青い鳥を連れて来ていた。

「教授。落盤だって?」

「ああ」

「ふぅん。中には何人」

「さあ、正確には。……捜索には十人ほど入った」

「ふーん。二次災害になるかも知れないのに。先生も、もう呼んであるんだろ?」

「ああ、先生なら」

 すっと手を上げて、坑道を示す。

「いまさっき、入っていった」

「……は?」

「怪我人が運び出されてくるのを待つのは、まだるっこしくて我慢できないらしい」

「はぁ?」

 めったに見ない焦った表情で、ゼファが坑道と森羅の顔を交互に見る。

「なんだ、それ。なんの冗談だよ」

「冗談でもなんでもない。リベルテは怪我人の治療を迅速に行うために坑に入った。見上げた医師魂だ」

「医師魂、って……」 

 ゼファが絶句する。さてどうするか、と森羅が思った時、その脚が坑道に向かって踏み出す。

 まるで何かに惹かれるように、突き飛ばされるように、ゼファがアルフェサーの坑道へ踏み行っていった。











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