※こちらの小説はR18となっております。
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 なお、18歳以上の方も、本文中に暴力・流血・性表現がございますので
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《7》









 

「悪魔ぁ?」

 半信半疑、という顔をナミがした。

 クルーは夕食のために全員食堂に集まって、メシがまずくなると困ると思いながらおそるおそるサンジがその話を切りだしたのだ。

 ルフィは眼をきらきらさせているしウソップはすでに及び腰、何事にも動じないロビンはまぁ、などといって小首を傾げている。

 その仕草もかわいいぜロビンちゃん、と思いながらみやるとチョッパーは逃げ出しかけ、フランキーは十字架を持っていた。どっから持ってきたんだ。

 そしてサンジと共に悪魔を見たゾロは、難しい顔をして壁際で腕を組んでいる。

「え、で、なに。悪魔が現れたの?ここに?」

「まあそうなんだよねー……」

「エロイムエッサイム、とか唱えた?」

「いや、してないしてない」

 なんの番組だよ!とウソップがお約束のつっこみを入れてくれた。

「だってそうやって呼び出すのが悪魔ってもんでしょ。それで魂と引き替えに願いを叶えてくれるのよね」

「伝承にはいろいろな悪魔がいるわ。そもそも悪魔、というのは、この世界で一番大きな勢力を持つ宗教に敵対するものすべて、と思った方が良いようよ」

「へえ」

「他宗教では神とあがめられる存在もその中には含まれているらしいわね」

「自分の宗教と違うと途端に悪魔って事か?ひとんちのカミサマにそれは酷くねえか」

 ウソップの言葉にロビンは頷く。

「そうしておくと都合がいいということでしょう。それで?サンジ君が出会ったのは、どんな悪魔なのかしら」

「……炎の悪魔だよ、ロビンちゃん」

 ロビンの言うこともわかる。

 けれどあの悪魔は、そういうものではない。もっと根元的な、世界のはじめから存在するような、その一欠片が形を取ったものだ。

 まさしく炎、の。

 それを悪魔と呼び慣わしたのはたぶん人間で、あの男はそれを面白がって使っているのだろう。

「炎が、そのまま意志を持った悪魔だ。…オレをずっと知ってたそうだよ」

「サンジ君を?」

「ああ。海の料理人には、炎の悪魔に対するまじないがある」

「おお、知ってるぜ。うまい食い物をやって、いたずらしねぇように頼むんだよな。海の上で火は致命的だからな」

 さすがに年の功というべきか、フランキーは海の様々なことに詳しい。

「ああ。それで、オレの前に姿を現したってわけだ」

「ふうん。……とびきり美味い料理を作る料理人を、悪魔に魅入られた舌を持つ、っていうことがあるけどな。そのクチか」

「さあ」

 美味い料理を作るから魅入られるのか、魅入られたから美味い料理を作るようになるのか。

 後者だとすれば、たぶんそんな料理を作れる時間など一瞬だ。あんな存在に魅入られて長く命を保てるほど人間は強くはない。

「なあなあ、オレも会ってみてぇ!サンジ、呼んでくれよそいつ!」

「お断りだ」

「なんでだよー、いいじゃんか!そんでおもしろいヤツだったら仲間にしようぜ!!」

「「「しねえよ!!!」」」

 三つくらいつっこみが重なった。

 本当にやりかねないからルフィという男は怖い。

 なんでだよー、つまんねえー、オレも悪魔にあってみてぇー、とぶうぶう言うルフィはみんなでさくっと無視しして、ナミがサンジに問う。

「なに、それでサンジ君はその炎の悪魔に取り憑かれちゃったって事?」

「………寸前ってとこかな」

「やーだ。お断りしてよね、ちゃんと」

「はっはっは。鋭意努力しますとも」

 サンジの言い分を悪魔が聞いてくれれば、だが。

「なあなあ、ゾロも見たんだろ?どんなヤツだった?」

 チョッパーの問いにゾロがかすかに表情を動かした。

「……優男だったな」

「男なのか!」

「見目はな。……だがありゃ、男だ女だなんて分けられるもんじゃねぇ」

 唸るようにゾロが言った。

「そいつが言った事は本当だ。アレは、人間じゃねえ。オレにわかるのはそれだけだ」

 不機嫌きわまりないというゾロの台詞に、チョッパーはびびって引いてしまう。

 呆れてサンジはその緑頭をはたいた。

「なにすんだ」

「チョッパーびびらせてどうすんだ。……敵いそうもなかったからって、大人気ねえな」

「………そんなこたねぇ」

「あるんだよ。しょーがねえだろ、ありゃ悪魔だ。たぶんエネルより質わりぃぜ」

 かつて会った雷の力を持つ男を引き合いに出して、サンジはそう評した。

 人の気配を読むゾロにならわかっただろう。

 あれは人が力で相対する存在ではない。

「で、どーすんの?」

 ナミがそう言って、さぁ、とサンジは応えた。

「とりあえず現れたらお引き取り願うさ。丁重に」

「そうしてちょうだい。そんなものに暴れられたらサニーだって一発でお終いよ」

「そうだね」

 ナミは半信半疑で、あるいは冗談半分でそう言っているけれど、それが冗談でもなんでもないことはたぶんサンジだけが知っている。

 あの悪魔はサンジが欲しいのだ。

 それをいつまで断り切れるかは、まだわからなかった。

  

 





























 その晩は、トレーニングルームでゾロと抱き合った。

 この部屋を使っているのはほぼゾロ、たまにフランキー、それに時折サンジも加わったりもするが基本的に忙しいので鍛錬は日常の動作で済ますことにしている。

 破壊力の権化のようなゾロのためにフランキーが力を尽くしたというトレーニングルームは丈夫で、防音も完璧だ。

 どれだけ声を上げても外に漏れるということがない。

 サニー号に乗るようになってサンジがキッチンの次にありがたかったのは、そのことだった。

 腕をくくられ、ろくに慣らしもしないまま突っ込まれて、上がる悲鳴が反響しても外には聞こえない。

 歯が欠けるほどに噛み締めなくてもいい。

 自分のシャツを口に詰め込んで堪えることもない。

「ァアー…ッ!ひ、ァ、ア…ッゾロ、ゾロ、テメェ、殺す…ッ」

 本気で殺意を覚えているのじゃないかと自分ですら錯覚する、罵りの言葉を誰かに聞かれることも。

「ア、ア、ア…ッ!」

 ゾロは無言だ。

 何に対して怒っているのかは薄々わかるが、それをサンジに向けられてもどうしようもない。

 そんなことはたぶんゾロにもわかっているのだ。

 後ろからがくがくと揺さぶられて、膝と肩、頬が地面に擦れる。床は掃除のしやすいように板張りで、凹凸こそ無いが硬さが緩和されるわけでもない。

 明日には青あざが幾つ出来ていることか。

「ゾロ、や、やめろ…ッ…」

「うるせぇ」

「このクソやろ…ッ」

 乱暴に突っ込まれた後ろは切れていて、血の匂いがする。

 たぶんゾロのペニスも血にまみれているだろうによくも萎えないものだ。

 それとも、血の匂いによけい興奮するのだろうか。

 額を床にこすりつけ、たまらない痛みをどうにかしようと足掻きながら、それよりもさらにどうにもならないのはその中からも愉悦を拾ってくるこの身体のだらしなさだった。

 背を押さえつけるゾロの掌から伝わる熱に、滴る汗に、そして獣のような快楽に荒くなるゾロの呼吸に。

「ふぅ…ッァ、アァ…ッ」

「……よく締まるじゃねぇか、コック」

「い、いてぇんだ…!当たり前だろ…ッ」

「嘘つけ。痛いだけじゃねえくせに」

 がぶりと血が出るほどに首筋に食いつかれた。

 これじゃ本当にネコの交尾だ。クソッタレ、と毒づけばその分だけ牙が深く食い込んだ。

「……触らせるな」

 唸るようにゾロが言った。

「触らせるな。髪一筋も、あんな男に」

「ぅアァ…ッ!」

「わかったか」

 オレのものだ、とささやかれて、ふざけんな、と返した。

「オ、オレは…オレのだ……テメェのでも、あの悪魔のでもあるもんか…ッ」

「………」

「わ、わかったら…手くらい、ほどけ、アホ…ッ」

 返事はなく、がくがくと揺さぶられて、切れて痛む場所をゾロの雄が行き来する。濡れた音と奥の奥で生まれる熱に翻弄されて、サンジは喘いだ。

「テメェは、オレのだ」

「……ッ」

「オレがそう決めた」

 この強欲め。

 真っ白になりそうな頭の中でサンジはそう罵った。

 人一人を手に入れようとすることは世界を奪おうとすることと同じようなもので、身体だけならたやすいけれど心までは従えられない。

 けれど何一つ余さずとゾロは要求する。

 それに諾々と従わないからこそ、ゾロはたぶん、サンジをいつまでも求め続けているのだ。

 ゾロは強く、餓えていて、その欲は果てがない。

 すべてを食い尽くそうとするゾロのセックスは、身体と同じくらいに心が引きずられた。

 この熱に任せてしまえばなにも考えずにすむ。

 彼に犯されるものとして自分を位置づけてしまえば、それはどんなに楽なことだろう。

 彼の熱に喘いで、欲に引きずられて、彼の夢を叶えるための道具に成りきることが出来るなら。

「…ッ」

「ぁ、あ…ッ」

 背でゾロが呻いて、サンジの身体の奥に精液を叩きつけた。

 その熱に引きずられて、サンジのペニスもぽたぽたと精液を零す。まだ中に何かが残るような、じわじわと中途半端な射精。

 ずるりとゾロが雄を引きずり出して、その時を待っていたサンジは思いきり身体を反転させた。

 結ばれたままの手を組んでゾロの頬をはり倒し、胸を蹴り飛ばして仰向けに転がす。

「…ッ」

 痺れてうまく動かない脚を無理矢理に開いて、ゾロの腹をまたがるようにのし掛かった。

 ついでに組んだ手をもう一回叩きつける。

 大したダメージにはならなかったようで、ゾロはげほげほと咳をしただけだった。

「…ッ、なに、しやがる」

「こっちの台詞だ…っ」

 ゾロのバンダナでくくられた手を突きつける。

「ほどけ」

「………」

「さっさとほどけ、クソ野郎…ッ」

 こんなものはセックスの手段ですらない。

 ひきちぎってやろうかと思ったけれどそれより先にゾロがおとなしく結び目を解いた。絡まった分は自分の歯で引っ張って、ほどけたバンダナを吐き捨てる。

 じわじわとそこかしこを蝕む痛みに顔をしかめながら、上半身をかぶせるようにゾロにのし掛かった。

「……この、強欲め」

「………」

「セックスくらい、暴力抜きでできねぇのか…ッ」

 唇を塞ぐ。

 荒々しい欲がゾロに引きずられるように身体の内側からわき上がってきて、サンジはゾロの舌に噛みついた。

 昼間再会した悪魔の、赤い眼と赤い唇が不意に脳裏によみがえった。

『マイスィート!炎をあげよう、君が必要とした力をあげよう!』

 悪魔は情動を煽る。

 ただそこにいるだけで、人の中にある炎に似たものをつついてめらめらと身悶えさせる。それが怒りや憎しみや、嫉妬という、心を動かしやすい力だったら人間はたやすく道を誤るだろう。

 だからこそ彼を悪魔と人は呼ぶ。

 人の中にある醜悪なものを、煽る存在だから。

 ならばいま、自分の中で猛り狂う嵐もたぶん元からそこにあったものなのだろう。

「ゾロ」

「……ッ」

「ゾロ、やれるもんならな、オレだってテメェに全部やっちまいてぇよ」

 サンジが呻くようにそう言うと、ゾロは眼を見張った。

 クソッタレ、とまた胸中で呟く。

 そんなこた思っても見なかったって顔だな。欲しい欲しいってそればっかりで、テメェはちゃんとオレの顔見たことあんのかよ。やってる最中ばっかりじゃ、なんもつたわらねぇんだぞ。

「身体も、心も。……なんもかんも、テメェに、やっちまいてぇ。…っ、けど、それじゃ、駄目なんだ」

「……サンジ」

「駄目なんだよ。ゾロ」

 彼の心も姿も、人を惹かずにはおかない。

 その強さに眼をくらまされて彼に所有されるのだと思ってしまえれば、それは楽だろう。

 けれどそれはサンジがサンジでなくなると言うことだ。

 そしてゾロは馬鹿だから、その時になって初めて、それが本当の自分の望みではなかったことに気付くのだろう。

「……ゾロ」

 キスをして、舌を絡めて、獣のように抱き合う。

 抱き潰されるかと思いながらのけぞって見上げた窓の向こうにぽっかりと白い月が浮かんでいて、それを見つめながらサンジの意識はふっと途切れた。




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