※こちらの小説はR18となっております。
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《4》









 べらべらと片時も黙らずうるさい男は、それから片づけをするサンジのあとをひよこのようについて回った。

 料理の残りがあるとすかさず脇からかっさらい、耳まで裂けた口でぺろりと食べてしまう。

 最初は思わずびびったが、えいと腹を据えてサンジはそれを黙認することにした。

 男はさっきからその止まらない口でサンジの料理を絶賛しているが、そんなもので気を許すわけにはいかない。

 なにしろ悪魔なのだ。

 物語や教訓、おとぎ話に出てくる悪魔は皆、人を陥れあるいはだまして骨の一本まであまさずしゃぶりつくしてしまう怖ろしい存在として描かれている。

 もちろん海の料理人達の間でもそれは同様で、悪魔に踊らされて自分の味も命も失ったという話がどれだけ多いことか。

「おお、このカルパッチョのうまいこと!ん、これはヒラメかな?それにホタテだね。タマネギの薄さといったら芸術的なほどだし、オイルはとびきりいいのを使っている。ケッパーの香りも程良く効いて、絶妙な味わいだ」

「………温くなっちまってるだろ」

「なに、何ほどのこともない。何しろ私の舌の上に乗ればすべての料理はこんがり焼けてしまうのだからね」

「………」

 それで果たして味はわかるのか。

 と突っ込みたかったがやめておいた。悪魔の身体の構造など説明されてもわかるはずがない。

 悪魔をお供に宴の後かたづけを終えて、気付けば残り物はすっかり彼の腹に収まっていた。

 サンジが皿を洗っている間悪魔はあたりをうろちょろしていたらしいが、もう陽が暮れてプールの周りは人っ子一人いない。

 炎だけが闇を舐めていた。

 その炎と同じ色の髪をした男は、サンジが振り返るとにんまりと笑う。

 ひょいと踏み出した足が焚き火の中に立って、思わず声を挙げそうになったけれど男は焼けも焦げもしなかった。

 動揺を抑えつつ、しかし眉をひそめてしまうのだけはどうにも成らずに、サンジは煙草をくわえて火をつけた。

 片づけのあとの一服だが今日は全然くつろげない。

「………オレは、そろそろ寝るぜ」

「そうなのかい。つまらないな」

「とりあえず、残りもんをかたしてくれて助かった」

「こちらこそ。充分美味かったとも、久しぶりに腹がくちくなったような気がする」

「そうか」

「そうだとも。我らはいつも餓えている」

「へえ」

  すい、と悪魔が近寄ってきた。

 じりっと眼には見えない炎がサンジの肌を焼く。合わせた悪魔の眼の奥で蒼い炎が閃くのが見えた。

 囂々と、炎しかない深淵がその中にのぞいている。

「サンジ」

「………なんだよ」

「マイスィート。君は私が必要だろう?」

 喜びに身悶えるように、悪魔はそう言った。

「私も君を愛している。これは両思いと呼べるのじゃないかな」

「いや、違うだろ」

 速攻で否定したら悪魔は実につまらなさそうな顔をした。

「なんだい。そんな素早く混ぜっ返さなくても」

「返すに決まってんだろ!うっかり黙ってたらどんなことにされるかわかんねぇ」

「私がかわいい仔猫ちゃんに無体なことをすると思うかね」

「だからやめろっつのその仔猫ちゃんとか小鳥ちゃんとか!オロすぞテメェ」

「あいにく炎は大根おろしでも摺り下ろせない」

 自分の言った台詞が気に入ったらしく悪魔はけたけたと笑った。

 そしてくるりととんぼを切って、降りたときにはそこに長身の男はいなかった。

「これならどうだ?我らは炎、姿など決まってはおらん」

「うお!」

 たっぷりとした赤い髪に赤い眼、とびきりの美少女が唐突に現れた。

 科を作ってウィンクをとばしてみせる。

「うお!な、なんてかわいいんだ、君のためならぼかぁ魂なんて……いやっ、イカンイカンイカン!!」

 ついいつもの調子でぺらぺらと口をついて出そうになった台詞に、慌ててサンジは掌で口をふさぐ。

 それを見た悪魔が唇を尖らせた。

「なんだ、せっかく好みの姿になってやったというのに。ん、これでは少し幼いか?もっと妙齢の美女の方が好みなのか」

「いやっ、いいいい!さっきの姿でいい、戻れ!」

「なんだ。やはりあの姿が好みなのか」

「好みじゃねぇがさっさと戻れー!!」

 目の保養のためにはこちらの方が一万倍いいが、あいにくつられて何を言ってしまうかわからない。

 サンジは自分が女性に弱いのを重々承知している。

 というかむしろそのことを誇っている。

 ふん、と鼻を鳴らした悪魔がまたとんぼを切って元の姿に戻った。この姿だって黙って立っていれば十分に人目を引く美男子だ。

 悪魔は面食いらしい。

 いや、人の心を惑わす姿をしているということか。

「………喰わせてやっただろ。さっさと帰りやがれ」

 毒づくと、悪魔はまた耳まで裂けた口から炎を零した。

「なにを言っているんだね。マイハート」

「だっから……」

「君が、呼んだんじゃないか。私を」

 

 私がどれほど嬉しかったかわかるかね?

 そう言って、悪魔は指先から口から、ほろほろと蛍のように赤い火を零した。







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