※こちらの小説はR18となっております。
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 なお、18歳以上の方も、本文中に暴力・流血・性表現がございますので
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 以上を踏まえた上で、先にお進みくださいませ。
 よろしくお願いいたします。










◆紅い足の伝説・7◆










    ◇◇◇

 

 

 世界は問いかける。

 常に問いかける。

 

 お前には生きる意志があるのか。

 お前は己の生を望むか。

 お前は己以外の生を許し、受け入れ、救うことが出来るか。

 

 それを成し得るものだけが、豊かな人生という至上の財宝を、その手にすることが出来るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて豊かな夢を見たのだろう。

 目覚めて、サンジはそう思った。

 長い長い夢だったが、目覚めた途端に夢だと知れるような夢だった。

 あんなにリアルだったというのに。

 ゆっくりと起き上がると、ハンモックが揺れた。仲間達はまだ眠りの中にいるようだ。

 毛布をめくり、左脚を見る。

 脚はちゃんとそこにあって、切り落とした部分がきりきりと痛んだけれどそれが幻痛だと言うことも解った。

 ハンモックを降りる。

 両の脚で歩いて、はしごを登り、甲板へ出た。

「………なんて……夢だったんだろうな」

 海は青かった。

 夜明けの海は白いウサギのような波頭を幾つも、幾つもたてて、たっぷりと深く青い色を湛えていた。

 その美しさが眼に沁みた。

 キッチンへ向かい、食材を一つ一つ確かめる。

 肉も野菜も果物も、まだほんの少ししか減っていない。

 当然だ、あの島を出てまだ一週間も過ぎてはいないのだから。

 煙草に火を灯し、キッチンの丸窓から夜明けの光を眺めながら、サンジはぼうっと過ごした。

 まだ夢の余韻から抜け切れていない。

 あれは夢だったけれど、限りなく現実に近い夢だった。

 人を試す海だと市場の青年が言ったことを思い出す。試されたのだろうか、自分達は。

 あんな形で、生きるための意志を。

 不意にキッチンの外でばたばたと階段を駆け上がる音が聞こえた。

 慌ててそっちを向くと同時に、バンと扉が開く。

「おい、コック!!」

「ゾロ……」

 ずかずかと近寄ってきたゾロが、押し倒さんばかりの勢いでサンジの両肩をひっ掴む。

「い、いて、何すんだゾロッ!」

「うるせえ!左脚、見せやがれ!!」

「え……」

 ものすごい強さで、ゾロの刀を振るう大きな手がサンジの左の太股を掴む。

「いてえ、いてえってゾロ!!」

「ついてんだな!?切れてねえな!!」

「ったりまえだ、あれは、夢だ夢……!!」

 そう怒鳴り返して気付く。あれは自分の夢だ。それなのにゾロは、サンジのスラックスをひっぺがさんばかりの勢いでサンジの左脚を掴んでいる。

「………テメェも、見たのか」

「ああ。……あんなのは、二度と、ごめんだ」

 その脚に血が通い、肉があるのを知って、ゾロは大きなため息を付いた。長い両腕が伸びて、サンジの背を抱え込む。

「……おい」

 気恥ずかしさにちょいちょいと腹巻きをひっぱった。

「おい、ゾロ」

「……テメェの脚を斬る感触が残ってる」

「……ああ」

「テメェは。コック」

「脚が……いてぇよ。少しだけ」

 自分が痛むような顔をゾロがしたので、ぴしゃりとその緑の頭をひっぱたく。

「夢だ。ゾロ」

 がやがやとキッチンの外が騒がしくなった。

「サンジ、ゾロ!!」

「おおい、無事かー!!」

「サンジ、脚診せろ脚ー!!」

 わあ、とみんなが一斉にキッチンになだれ込んでくる。

 その勢いに押し流されて二人はもみくちゃになった。

 サンジの脚が無事なことをみながかわるがわるに確認し、歓声が上がる。

 わあ、という喜びの声が青い海の上を流れていった。

 

 






















 

 長い、長い夢は、薄皮が剥がれるように日々遠くなっていった。

 夢とはそういうものだ。

 それは現実ではなく、身体で経験したことでもない。

 黒い海は、怖かったなとウソップが呟いたり。

 海賊王と大剣豪になった二人はすごくかっこよかったぞとチョッパーが語ったり。

 旅の果てのラフテルがもうよく思い出せないのよとロビンが苦笑したり。

 そんな風に少しずつ思い出を話しても、それは日々遠くなった。黒い海よりも目の前の青い海の方がよほど強い。

 風も波も毎日やってきて、翻弄されるばかりの羊船を必死で操るうちに、夢はただの夢だったと思うようになった。

 

 

 

 

 見張りのチョッパーに夜食を届け終わったキッチンに、ゾロがやってきた。もう真夜中だ。

「どうした。酒か?」

「いや……」

「腹が減ったのかよ」

「そうじゃない」

 このところ良くあることだ。

 あまり口数の多くない剣士は酒を飲むでもなく暫くキッチンに居座ってから出ていく。

 サンジは気にしないようになっていた。あの長い長い夢の後から、ゾロが間近にいると言うことがなぜか当たり前な気がした。

 あれは夢だったのに、時折まるで夢ではなかったかのように振る舞うゾロが不思議だった。

 ゾロはサンジの左脚を見ている。

 食い入るように。

 今日もキッチンの長椅子に腰掛けて、後かたづけをするサンジの後ろ姿を眺めていた。

「……あれは」

 不意にゾロが口を開いた。

「あれは……美味かった。サンジ」

「え」

 名を呼ばれたことなどあっただろうか。慌てて振り返ると、まるで黒い宝石が凝ったような底光りのする眼で、ゾロがサンジを見つめていた。

「あれ……どれだよ」

「テメェが、オレ達のために作った、あのシチューだ」

 いつ作ったヤツだ、空島のかよ、と茶化そうとして出来なかった。ゾロが何のことを指しているかなどすぐに解る。

「……だから?」

 ガタン、とゾロが立ち上がった。

「あれぁ、夢のシチューだぜ。ゾロ。喰いてえとか言うなよ」

「いわねーよ。……似たようなもんだが」

「え」

「サンジ」

 伸びた腕がサンジを捉える。いつか夢で見たようにキッチンで抱きしめられた。

「テメェが……オレを、選んだんだ。いまさらじたばたするなよ」

「え………」

「喰わせろよ。……同じものを背負えと、テメェが言ったんだ」

 食いつくように唇が重なった。

 ゾロの厚い舌が薄い皮膚をべろりと舐め上げる感触に、背筋が震える。一歩後ずさればもうシンクに背が付いた。

「……ッ、ふ……ぁ」

 男とのベロチューなんて冗談じゃねぇ、と頭の隅で喚く自分が確かにいるのに、両手はシンクの端に付かれまま上がらない。

 背に回された腕がしっかりとサンジを抱きしめている。

「……ッ、ぞ、ろ……ッ」

「……サンジ」

 舌が絡まる。持ち主と同じようにふてぶてしく、厚かましいそれはサンジの中に滑り込んで、味わおうとするようにねぶった。ぞくぞくと背筋が泡立ち、覚えのあるその感覚がゆっくりと下に降りていく。

「……ッ、ま、待て、待て、ゾロ……ッ」

「またねぇよ」

「……おい…ッ」

 しっかりとサンジを抱き込んだゾロが、あれは、美味かった、ともう一度呟いた。

「一口飲むだけで……身体中に命が染み渡る気がした。あんなものは、もう二度とねぇ」

「だ、から……あれは、夢」

「夢だが、夢じゃなかっただろう。サンジ」

「……ッ」

 大きな掌がシャツを引っ張り出し、がちゃりとベルトを外す音が卑猥に響いた。突っ込まれた掌が直接左の太股を撫でてサンジは大きく体を震わせる。

「おい…!」

 時折、痛むその場所。その痛みすら後一月もすれば何の跡形もなくなるだろうに。

「お前が……喰わせたんだ。生きろと言った。オレ達を、生かそうとした」

「そ、それが……」

「最悪で最善の方法だ。それを一緒に負えと言ったのは、テメェだろう」

 その通りだ。

 言われずとも、サンジはあの時ゾロを選んだ自分をはっきりと思い出すことが出来た。

 たとえ独りきりで出来たとしても。

 刀を持つのがゾロでなくとも。

 それでも、あの重さを共有してくれと、サンジはゾロに言っただろう。そうすることを自分の心が選んだからだ。

 ゾロにしか、この荷は任せられないと。

「……っ、だ、だからって……ッ」

「テメェが、オレを、選んだんだ」

「……ッ」

「わかってるだろう」

 荒々しいゾロの手がシャツのボタンをもどかしげに外し、薄い胸板に指先が滑る。普段そこにあることも忘れているような乳首に触れられて、慌てて身を捩った。

「だ、だ、だからって……ゾロッ!お、オレぁレディじゃねんだぞッ!」

「んなこたわかってる」

「じゃ、こ、こういうことは…」

「惚れた腫れたにそんなもん関係あるか」

「え……」

「テメェの覚悟に惚れたっつってんだ。サンジ」

 てめえもだろう、と間近で人相の悪い男がにやりと笑う。

「背負えっつったのはテメェだ。オレだけなのは、不公平だろう」

「……こんなことまで」

 望んではいなかったと、本当にそういえるだろうか。

 あの罪を共有することでこの男を縛ったと、そう満足する自分がどこかにいなかっただろうか。

「サンジ」

「……ッ」

 また唇が重なる。サンジの身体をまさぐる指を止めないまま、あの日に彼の脚を斬ったこの場所で、ゾロはサンジを抱こうとしていた。

「……ッ」

 堪えていた息をサンジは吐き出す。くそ、と小さな声で呟いた。触れる指先も重なる唇も、自分より余程高い男の体温も、この身体は嫌がっていない。

「……テメェ……夢に、踊らされてんじゃねーぞ、ゾロ」

「知るか。夢がどうだろうと、欲しいのはテメェだ」

「……ははは」

 限りなく現実に近い夢の中で、ゾロは、サンジに惚れたのだという。

 それこそまったく夢のような話なのに、あろうことか現実だ。

「……いーぜ、ゾロ」

「おう」

「喰わせてやる」

「あたりまえだ」

 憎たらしいことを言う唇が首筋を辿り、獣のように甘噛みする。ジャケットはいつの間にか床に落とされ、シャツは腕に引っかかっていた。

 鎖骨を強く吸われ、スラックスのファスナーが下ろされる音に震える。掌で確かめるようになで回されればもう立っていられないような気分になって、キッチンに背を預けたままずるずると座り込んだ。

「……ッ、ふ……ッ」

「……っ」

 荒い息を交わしながら、濡れたキスをする。一瞬でも離れたくないと言うように触れてくるゾロの熱い唇と舌に煽られて、サンジは彼の肩に手を掛けた。

 離れた唇から唾液が白い糸を引き、ぽつりと露わになった太股の上に落ちる。

 ちらりと剥き出しになった自分の脚を見た。

「……男だぜ?」

「わかってるっつってんだろう」

「骨があたるし、すね毛も生えてんのによ……そんなのに、テメェ、欲情すんのか」

「テメェもだろ」

 ゾロの欲望は、もう服の上から解るくらいにはっきりと形を変えている。はらまきに指をかけてサンジは思いきり引っ張ってやった。

「おい。伸びる」

「さっさと脱げ。オレだけ先に剥いてんじゃねーよ」

「おう」

 ゾロが腹巻きを、ついでシャツを脱ぎ捨てる。無惨な傷跡が露わになったが、それももう、過去の証だ。

 少しだけ色の違う皮膚をつっと指先で辿ると、ゾロがしかめ面をする。

「なんだよ」

「……あんまり煽んな」

「はは、暴発しそうってか」

 からかうと獣のようにゾロが喉の奥で唸り、のし掛かってくる。人のことを言えた義理でもなく、まだ脱いでいない下着の中ではサンジの雄も少し硬くなっている。

「……っ、わ、おい……ッ」

 布地の上からまさぐられて、そのたまらない気持ちよさにサンジは慌てた。

 けれどゾロは止める様子もない。

「……ち、ちくしょ…」

 慌ててゾロの残ったズボンに手を伸ばしてくつろげ、引きずり下ろしてやる。下着の上からでも解るほど形を変えたそれは、サンジのものよりも明らかに大きく、何だか負けた気分にさせられて少しばかりくさった。

 手を伸ばして触れれば、一層硬く熱くなる。

「……うー…ッ」

「く、…っ」

 唸ったゾロの指先が中に滑り込んで、直接触れてくる。

「……て、め……よく、萎えねぇなぁ…ッ」

「ついてるモンは一緒だろうが。テメェだってこんなじゃねえか」

「そ、そりゃ……触られてっから……」

 言葉がもどかしいというように、ゾロはサンジを嬲る手に力をこめる。唇が頬を、首筋を、鎖骨をくまなく辿って舐めた。

 微かにちりっとした痛みが走るのに、痕を残すなと罵倒する余力もない。

「……ハァ…ッ、は、ぁ、あ……ッ」

 ぶるりと腰が震えて、堪らずサンジは空いている手でゾロの肩にしがみついた。尻が揺れて、彼の大きな手を汚したことに気付く。 

 次の瞬間、ぐいと腰を引かれてキッチンの床の上を滑った。「う、わ……ッ」

 毎日サンジが一欠片の食べ物も残さないよう綺麗にしている床だ。倒れてもさして支障はないが、のし掛かる男の重さに震えた。

 ゾロがもどかしげにズボンと下着を脱ぐ。

 厚い胸板が直接重なって、その重さと雄の匂いにくらくらと目眩がした。

「……サンジ」

「……ぅ、あ……ぞ、ゾロ」

 くったりとした脚を割られ、その間にゾロが入ってくる。

 左脚の太股に彼が歯を立て、口づけるのが、堪らなく卑猥な眺めだった。 

 サンジの精液で濡れた指先をゾロが太股を辿らせてその奥に滑らせてくる。

「ぅ……ッ、ゾロ…ッ」

「狭ぇな……」 

「あ、あったり前だ……ボケッ」

 尻を割られ、その奥に自分ではないものが押し入ってくるのは堪らない違和感があった。滑った指先は潜り込んできたがそれ以上にはどうしても進めない。

「力、緩めろ」

「……う〜ッ」

「おい。サンジ」

 薄く眼を開ければ滾ったままのゾロの欲望と、少し歪んだゾロの表情が見えた。突っ込みたいのを堪えているのだと手に取るように解って、サンジはどうにもたまらなくなる。

 欲望のまま動くことなど簡単だ。

 こうなってしまえばサンジでもゾロの馬鹿力に抵抗することなど出来ない。

「……油」

「なに?」

「そこ、の……戸棚に、オリーブオイル」

「ああ……」

 ガチャ、という音。すぐに嗅ぎ慣れたオリーブオイルの香りがキッチンに広がった。二つ前の島で手に入れた特上のヴァージンエクストラは、こんな事に使うものではない。

「……ちっくしょ……テメェ、男抱こうってんならそれなりの準備してきやがれ……」

「ああ……悪かった、次からそうする」

「次なんて……」

 あるもんか。そう悪態をつくより先に油で滑った指が身体の中に滑り込んできた。キッチンの床に爪を立てて耐えると、それに気付いたゾロが無理矢理サンジの腕をとる。

「オレにしがみつけ」

「て、テメェ……爪立てるぞ」

「ああ」

 唇が落ちてくる。

 いつもは刀を銜えている大きな口が、似合わない丁寧さで額やこめかみや鼻先に触れて、苦痛と違和感を少しだけ和らげる。

「……っうー…ッ、ん、くッ」

 濡れた音と身体の中をまさぐられる気持ち悪さにサンジは呻いた。あの大きな手が、今は自分の中にある。そう思うと腹の奥から立ち上るような熱も感じた。

 うっすらと汗に沁みる眼を開くと、ゾロの男臭い顔が間近にある。

 苦痛を感じているように歪められたその表情が、堪らなく色っぽいと思った。

「ぞ、ゾロ」

「ああ」

「……も、もう平気……たぶん」

「いてぇんじゃねえのか」

「平気だっつってるだろ」

「……」

 唸って、頭を一振りしたゾロがずり落ちていたサンジの左脚をもう一度抱え直す。

 押し当てられた熱に、サンジは仰け反った。

 女の子はすげえなぁ、と場違いな感想を覚えてしまう。他人を身体の中に受け入れるなんて怖ろしいことを、いつもしているのだ。

 女性が美しく、懐深く、魅力的なのも当然のことだと思う。

「……く……ッ」

「ッ、うァ……ッ、ゥ」

 ずる、と熱いものが腹の中に入ろうとする。とっさに拒む力を深く息を吸って抜こうとする。

 少しずつ、少しずつ押し入るのはさっきとは比べものにならないくらいの塊で、苦痛にサンジは呻く。

「……ってぇ……く、ぅ……」

「もうちょっと……緩めろ……」

「で、出来るかボケッ」

 声を上げればその分腹に力がこもってしまう。うう、と唸りながらサンジは息を吐いた。目尻から生理的な涙がぽろりと滑っていく。

 ずる、と入り込んだ熱に声もなく仰け反った。

「……ッ、ァ」

「……痛ぇのか」

 耳元でゾロが囁く。あったりまえだろうと罵ろうとしたけれどその声も苦しそうだったので出来なかった。

 腹の中にあるゾロの熱がずん、ずんと脈打っていて彼がどれだけ辛抱しているのかがわかる。

 大きく息を吸って、苦痛と折り合う。

「……もっ、良いぞ……ゾロ」

「……」

「うごけ、よ……」

 ずる、と熱の塊が引き出される。次の瞬間にはまた突き込まれて、痛みに呻いた。

「……ア、アぅ……う、ん……ッ」

 ずるずると粘膜が擦られる。低く呻いたゾロが、サンジの雄に指を搦めた。動きを少しゆっくりにして、感じる場所を探る。

「……ッ、おい、ゾロ……ッう、動いて、いいって……」

「うるせえ」

 少しずつ下肢にまた熱が溜まり始める。ゾロの雄をくわえ込んだままじわじわと快楽がまた襲ってくるのが解った。

「おい……ッ」

「ちったぁ良いかよ。コック」

「う……」

 サンジの雄が勃ちきった頃を見計らって、ゾロがまた激しく動き出した。苦痛は変わらなかったが快楽もそのままで、その狭間でサンジは散々に翻弄された。

「はぁ、あ、ぅ…ッ、あ、あ…ッ」

「う…ッ」

 ぶる、とゾロが胴震いをする。ぐわっと一際大きくなった熱が腹の奥で弾けるのが解った。

 ひたひたと浸食されているようだ。

 仰け反って震えると、ゾロがサンジを掴んでいたままの右手で敏感な場所をことさらに嬲る。

「…ァア…ッ!」

 ぴしゃ、と飛んだ白いものがサンジの腹とゾロの頬を打った。

 にやりと笑った男が、抱えたままの白い脚に跡が残るほど強く歯を立てる。

「ッあ、痛ぅ…ッ!」

 苦痛と、そこからびりびりと走った電流のような痺れにサンジが震えると、ゾロはその跡の上をべろりと舐めた。

 その眺めにまた欲情した。

 

 何度目かももう良く分からない。

 腹の奥でゾロの塊が動く感触など、もうとうに感じられなくなった。熱いばかりだ。

 そしてその熱さの中に、無視することも出来ない快楽がある。

「あ、もぉ……ッ、止めろ……ゾロ…ッ!」

「止めねぇよ」

 くたくたになったサンジの脚を抱えて、その中心に顔を埋めていたゾロが笑う。

「気持ちいいだろう。テメェも」

「ばっかやろ……す、過ぎたるは、及ばざるが如しって言葉をしらねぇのかクソマリモ…ッ」

 笑うその唇が唾液と唾液でないもので光っている。

 サンジが苦痛以上に悦んでいると解ってからのゾロは、それこそやりたい放題だった。

 何度いかされたかももう良く分からない。

 ぐちゅ、と音がしてまた中に押し入ってくる。

「……うぁ……ッ、あ、は……ッ」

「サンジ」

「……う、うーっ、ん」

 熱いばかりの中からぞわぞわと背筋を駆け上ってくるものがなんなのかをまだ知りたくなくて、サンジは強く眼を瞑る。

 ぐちゃぐちゃのどろどろになって、ぴったりと合わさった下肢が揺れた。

「ぞ、ゾロ、ゾロ……ッ」

「……なんにも」

 低い男の声が囁く。

「なんにも……無くさせねぇ。サンジ」

 苦痛と快楽の中でサンジは笑う。

 何一つ無くしたことなどない。

 与えることばかりを考えている仲間達と共にいて、この男の腕に抱かれて、無くすものなどあるはずがない。

 そう言ってやろうと思ったけれど、それは言葉にする前に消えた。

 微かなゾロの呻き声が聞こえたのを最後に、ゆっくりとサンジは穏やかな眠りの中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇ 終章 ◇◇◇

 

 

 そして次の島に船はたどり着いた。

 前の島と同じように活気に溢れ、たくさんの船が停まった港があり、市は大きかった。

 たまには奮発するわ!というナミの号令で、みんなで街の食堂で夕食をとることになり、揃って船を下りる。

「いいのかよナミさん。オレ、作るぜ?」

「たまにはいいわよサンジ君。それにこの街一番のお店だって話よ?しっかり味わって、美味しい料理を盗んでちょうだい」

 くふふ、と可愛らしく笑う航海士の抜け目のなさにサンジも笑った。

 メリー号の四角いテーブルがもちろん一番だが、たまにはこうして丸テーブルを七人全員で囲むのも良いものだ。

 ペットに間違われがちなチョッパーも今は人型になって、出てくる料理を今か今かと待ちこがれている。

 港の食堂は大抵メシ屋兼酒場だ。

 陽が暮れたばかりだというのに飲んだくれた男達がそこここで陽気に馬鹿騒ぎをし、美しい女達がひらひらと金魚のように薄暗い中を泳いでいた。

 ぽつぽつと橙の炎の灯されたカンテラが、料理を美味しそうに見せている。

「はいよ、おまちどお!」

「おーっ、うまほーッ!!」

 次から次へ、所狭しと並べられる料理に船長が喜びの声を上げて行儀悪くフォークとナイフを打ち鳴らす。

 それを合図にみんな一斉に飛びついた。  

 久しぶりの陸での食事だ。

 さすがにナミが探してきただけあって料理はどれもこれも美味しく、サンジも久しぶりに食べる側になって舌鼓を打った。 もちろん、頭の中にレシピを書き留めることも忘れない。

「ふぃふぁあー、ふぇはっふぇふぇ」

「飛ばすなっ!」

「何いってんだかわかんねーぞ、ルフィ!」

 頬袋があるんじゃないかと思うほど口の中に食い物を詰め込んだルフィがそのまま喋るのをナミがどつき、ウソップが大笑いする。

「あら、これは美味しいわ」

「どれだいロビンちゃ〜ん!」

「ふふ、コックさんに頼んだらなんでも作ってくれそうね」

「あったりまえさぁ、ロビンちゃんのためなら!……オイコラゾロッ!」

 隣に座ったゾロの手がぐいっと尻を掴んだので慌てて振り返って殴る。しれっとしたまま酒を飲んでいるのを見て、こんちくしょうと口の中で唸った。

「どうしたんだ?サンジ」

「あーあー、なんでもねぇよチョッパー!こいつがちょっとな!」

 酒もふんだんにあって、仲間達はみな思う存分飲み食いをした。

 なにしろ財布の紐を握るナミの了承済みだ。

 たっぷりと飲み、食べて、ふぅと一息ついたところでふとサンジは店の奥に小さな人だかりがあることに気がついた。

 真ん中にいるのは、見たこともない楽器をかかえた男だ。

「あら。吟遊詩人がいるのね」

 嬉しそうにナミが眼を輝かせる。

「ひんゆーひひん?」

 まだ意地汚く口の中に食べ物を詰め込んだままのルフィが問いかける。

「きったないわねあんた。吟遊詩人っていうのは、島から島へ巡って物語や音楽を人に売ってる商売のことよ」

「つまり、音楽家だな!」

 きらきらとルフィが眼を輝かせる。

「いーなぁ、音楽家!仲間にならねーかな!」

「聴きもしないうちから言ってンじゃないわよ」

「聴けばいいだろ、いま!なあ!」

「じゃあちょっと静かにしてなさい。そしたら、聴こえるから」

 折しも吟遊詩人は、一曲目の演奏を始めようとするところだった。

 何本もの弦が張られた見知らぬ楽器に、長い指が落ちて弾き、音を奏でる。

「おお……雰囲気あるなぁ」

 バラティエにも時折詩人がやってくることがあった。

 大抵はあのレストランの荒々しさに引いて逃げていってしまったが、なかにはちゃんと稼いでいった強者もいる。

 この吟遊詩人の腕前はどうだろうか。

 繊細な音楽に乗って、艶やかな歌声が零れだした。

 

 

 それは遠い遠い昔のものがたり

 青い青い海のその果てに黒い黒い海があった

 それは油のように濃く毒のように苦く生きるものとてない深く広い絶望の海だった

 

 

「……あれ……」

 チョッパーが呟く。

 みな、同じ事を考えているのが解った。

 

 

 その海は人を拒む海 船を拒む海

 多くの船が道標を失い波間に沈んでいった

 小さな小さな海賊船が黒い海を進む 船首を波に向けオールを漕ぐ力強く

 

 小さな船は諦めなかった

 船員達はみな助け合った

 食糧を分け合い 水を分け合い

 進んでいった黒い海を

 小さな船は仲間を思う心を積んで進んでいったどこまでも

 

 長い長い絶望の航海 黒い海に果てはない

 誰もがそう信じかけた

 

 食糧は尽き

 やがて水も尽き

 餓え渇く仲間達に料理人は言った

 どうかこの身を食べてくれと

 

 

 おいおい、とウソップが呟いた。

 あの過酷な旅を、いま誰もが思い出していた。   

 

 

 コックは捧げた自分の左脚を

 仲間達は生きのびた黒く深い絶望の海を

 やがて青い海にたどり着いた

 喜びは海を渡り空に響き 優しい海賊船は駆けていった

 滑るように青い波の上

 

 金の髪に青い眼

 誰よりも優しい料理人

 救うことも無くすことも怖れなかった強い強い海の料理人……

 

 

「なんだ……これぁ」

 唸るようにゾロが言った。

「ね、ねえちょっと。今の歌ってなに?」

 ナミが隣のテーブルの酔っ払いに声を掛ける。気分よく飲んでいた一団は、どうやら島の人間のようだった。

「ああ?ねーちゃん達、海から来たのか?」

「そうよ。今日着いたの。ねえ、今の歌って」

「ありゃあな、この島に伝わる伝説さぁ。この島にゃたくさん言い伝えがあるんだが、そんなかでもガキでも良く知ってる話だぜぇ。吟遊詩人の喉慣らしってとこさぁ」

「伝説?この島の?」

「ああ、そうさ。前の島からログを辿ってきたんだろう?あんた達も。あの海路じゃ、時折おかしな事が起きる。その時の話が、伝説として幾つも残ってんのさぁ。ありゃあ、に巻き込まれた海賊の話だ」

 上機嫌な酔っ払いは、次から次へと話してくれる。

「黒海ってのはな、まるで油みてぇに真っ黒な海なんだと。魚もなんも住めず、ただ黒鵺っていう目も鼻もない口だけの化け物が泳いでる海だ。まあ、お伽噺だけどなあ」

「………」

「そこに紛れこんじまった海賊が、どうやって抜け出したかの物語さ。地味なんだが、これが不思議とガキ共には人気がある。自分を捨てても仲間を助けようってのがいいのかねぇ。まあ、おかげでこの街にゃ美味い店が多いけどな!」

 はっはっは、と男は笑う。

 まだ吟遊詩人の歌は続いていたが、もう誰も聞いていなかった。

 ナミが会計を済ませ、連れ立って店の外に出る。

 何故だかみな、神妙な顔をしていた。

「不思議な話もあったもんだなぁ。ねえ、ナミさん?」

「……そうね。どういうことなのかしら」

「もともとそう言う話があったのか……それとも、コックさんの夢が、何らかの形で伝わったのかしら?」

 そう考えるには時間的に無理がある。

 けれどここはだ。

 どんなことが起こっても不思議ではない、夢と冒険の海だ。

「だとしたら私達は、どこにいたのかしら」

 ロビンが呟いた。

 あれは限りなく、限りなく現実に近い夢だった。

 左脚をさすり、サンジは煙草に火を灯す。

「どっちだっていいさ」

 みんなが一斉にサンジを見た。

「どっちだっていいんだ。オレの脚はあるし、あれはもう過ぎ去ってオレ達は生きのびた。オレ達は先に進む。だろう?キャプテン」

「おお、あったりめぇだ」

 一人だけ何も考えていないという顔をしたルフィが、力強く頷く。

「なぁ、サンジ!脚あって、良かったな!」

「おお」

「よーし。みんな、船まで競争しようぜ!」

「ええ!?今からかよ、ってちょっと待てこら!フライングだろ!!」

 ウソップが駆けだし、つられてチョッパーも走り出す。

 もう、ガキねー、とぼやくナミとロビンが連れ立って歩いていく。

 サンジの隣にはゾロが残っていた。

「……おい」

「なんだよ」

「いいのか。……あんな、見せ物みてーな」

「ああ?……なんだそれで仏頂面なのかゾロ」

 サンジは笑う。

「あれぁ、オレじゃねえよ。ゾロ。誰か違う男の話だ」

「………」

「でも……そいつも、脚喰わせてでも、仲間を助けたかったんだろ」

「………」

「それが物語になってガキ共が憧れる。結構な話じゃねぇか」

 ぐい、とゾロの右手をとる。

 不意を付かれたのか眼を丸くしたのににんまりと笑い、とった右手の甲にサンジはくちづけた。

「おい」

「……忘れねぇよ。ゾロ。それでいいんだろう」

「………」

 あのシチューの味を忘れないとゾロが言ったように。

 サンジも覚えている。

 ひやりと太股に触れた彼の刀の冷たさと清冽さ、少しもぶれなかった迷いのない潔さ、そして気の狂いそうな料理の間中支えてくれた大きな手を。

 ただ生かすためだとゾロは言った。

 生きるための意志を、その方向を、形にして示さなければもしかしたらあの黒い海は越えられなかったのかも知れない。

 その先に続いた豊かな夢は見られなかったのかも知れない。

 何を犠牲にしてもと言った重さを、半分奪ってくれた手だ。

「……はは。手繋いで歩いてんのオレら。おかしくねーか」

「うるせえ。テメェから握ったんだろう」 

 照れ隠しにちゃかして、サンジは歩く。

 この島には脚を失った男の伝説がある。

 それがどこから、誰から伝えられたものかは知らない、どうでもいいことだ。

 けれどあの黒い海の上でおきたいくつかの出来事を、サンジは忘れないだろう。

 あれは生きるため、生かすための料理だった。

「行こうぜ。ゾロ。遅れちまった」

「ああ」

 

 この先へ。

 青い海へ。

 あの夢を越えるほど豊かな旅を、そして仲間達と共に続けていく。

 この手が、指先が、心が、常に新しく美味しい料理を生みだし、そしてそれが彼等の大いなる夢の糧になるようにと、サンジは強く願った。

 

 

 

    2007/03/12 了

 










07/03発行「紅い足の伝説」

なにがなんでも生き残る、という意志が海賊には必要なんじゃないのかなー。
と思って書いた気がいたします。
読んでくださってありがとうございました!

10/01/14