◆美しいものは何よりも◆《ONE PIECE》

 

 

 ん、なんだ?アンタオレになんか用かい?

 おっ、おごってくれるのかこいつぁすまねえな。

 おう、この美味い酒に免じて一杯分くらいはつきあってやらぁ。なんだよ仕事の話か?これでもオレのアクロバティックな格闘技はちょっとしたモンなんだぜ。

 名前は言えねぇが、ある秘密組織に属してたことだってあるんだ。

 ん?違う?じゃ、なんでオレに声かけたんだよ。

 

 ……しらねぇな、そんなヤツ。

 オレの名前はそんな番号じゃねえぜ。知らねぇったら知らねぇ。

 そんな話ならきかねえぜ。

 

…そりゃ、一杯分は付き合うっつったけどよ。

 

ん?海賊を追っかけてる?

アンタ普通の人だろ、なんでまた。復讐でもすんのかい。返り討ちに合うのが関の山だぜ、やめときな。

 違う?じゃ、なんでまた。

 

 ……へぇ、作家先生かい。

 小説のモデルにしたいのか?よりにもよって海賊を?

 おいおい、あんな奴ら先生が夢見るような海の男なんざ殆どいないも同然だぜ。取材させて下さいなんつったら身包みはがれて沖合いで放り出されるのがオチだ、やめとけって。

 まぁ、そりゃ、たまにゃそんなじゃねえ連中もいるけどよ。

 一握りだ、一握り。

 

 麦わら?………あいつらか。

 あ、ああいやいや会ったことなんかねえぞ!噂、噂だって!知らねぇっつってるだろそんなMr.9なんて男のことなんか!

 うわ、オイ何すんだ!

 やめろよこんなとこで土下座なんてすんじゃねぇよッ!

 立てって、おい!

 ぅ〜ッ、わかった、わぁかったッ!!

 場所変えるぞ、おい!!

 

 

 

 重ね重ね聞くが、あんたホント海軍の回し者じゃねぇだろうな…もしくはBWの残党とか。…これでも一応脛に傷持つ身なんだ、わかってんだろ?

 ああ、ああ。

 そりゃそうだけど。

 この店ならもしあんたが海軍の回し者でも逃げられるけどよ。

 

 わかったって、話してやるよ!何が聞きたいんだ?

 

 ……ネフェルタリ・ビビ?

 ああ………。

 

 ん、なんだよ。

 笑ってねぇよ、笑ってねぇ。

 オレぁあんたの懇願に負けて話してやろうってんだぞ、からかうな。

 

 ネフェルタリ・ビビなんて、オレぁ知らねえ。

 オレが知ってんのは、ミス・ウェンズデーさ。

 

 それは偽名だって?知らねえよ、どこの国の王女だろうがなんだろうが、オレの相棒だったのはミス・ウェンズデーだ。

 ああ、引き合わせたのはミス・オールサンデーさ。オレ達団員の管理はほぼあの女がやってたからな。

 彼女がオレとペアを組むって言われたときにゃ内心小躍りしたもんだ、何しろ美人だしなあ。なんでもMr.8とは昔からの知り合いで,二人して二千万の海賊の首を手土産にBWに入り込んだってことだったけどな。

 そりゃ、始めは王女様だなんて思いもしなかったさ、普通そうだろ!

 まあ…いま考えてみりゃいろいろわけあり風じゃあったけどよ。あんな綺麗な若い娘が、なにも秘密結社なんて入らなくってもと思ったりもしたがな。そういうことは聞かねぇのが華ってもんだ、そうだろ?

 

 まあとにかく、ミス・ウェンズデーはオレのパートナーだったさ。

 ああ、パートナーってのは、ふつう男女一組だ。どんな指令にも対応できるようにな。

 ん?よせよ、そういうんじゃねえよ。中にはそういうヤツらもいたかも知れねぇけど、オレたちは違うぜ。下種の勘繰りすんな。

 ああ、いや、謝ってもらうようなことじゃねえけどよ。

 …そりゃ、オレはミス・ウェンズデーのことをちょいといいなと思ってたさ、アレだけの美人だ、男として当然だろ!

 

 …お、まだおごってくれるのか。ワリィな。

 話の駄賃?ふざけんな、この程度の酒で買えるほど安くねえぞ。

 あんたがそんな眼して頼むから話してやってんだ。いいか、ウソ書いたり捩じ曲げたりしたら承知しねえぞ。

 

 

 パートナーだったのは…そうだな、二年近くか。

 おお、思えばずいぶん長い間一緒に仕事をしてたなぁ。まあ、今となってはあっという間だけどよ。

 ミッションは、そうだな、十ばかりはこなしたか。オレ達はボスから直接指令が来るまではフリーだ、なにしててもいい。けど基本的にコンビは離れねぇでいることが条件だった、いつでも指令に対応できるようにな。

ああ?メリット?…そうだなあ。まずは秘密結社のネットワーク。

それさえ利用できりゃまず失敗なんざしねえ。決まった金額さえ納めりゃ後の金は自分のモンだ、結構稼げたからな。

あとは、あれだ。

……まあ、ちょっと夢見ちまったのさ。

おい、笑うなよ。

笑ってねえ?この先聞いても笑うなよな。

 

……オレ達はなあ。

いってみりゃ、はぐれものの集まりだ。持ってたはずのモンをみんな無くしちまって、強くなって暴れる以外なんにもなくなっちまったヤツらの集まりだった。

オレだって金のために大抵のこたぁやってきた、それこそあんたにゃ言えねぇようなこともな。

それが、仲間ってもんができた。

まあ、ガラの悪ぃやつらばっかりだがよ。それから…自分の国が出来るってのは、とてつもない夢物語みてぇに思えたんだよ。

だって自分の国だぜ、自分の国!しかも手柄をたてればたてるだけ、重要な位置につけるってんだ!それってすごいだろ、国にオレが必要とされるってことだぜ?

 

……まあ、あそこにゃいろんな野心を抱いてたヤツがいただろうよ。ただ金が稼げるから入ったヤツもいただろ。

他のこたぁ知らねえ、ただ、オレはそう思ってたんだ。

 

 

あいつと組んで……三つ目のミッションの時か。

オレがドジ踏んだ。Mr.10達と組んでよ、1500万だかの海賊の組織を潰しにいったんだ。海の狼海賊団とか言ったか、なかなかずるがしこくて手ごわいヤツだった。

ようやくあとはヤツラごと根城を爆破して終了ってとこでオレが取り残されたんだ。

ああ、ここで死んじまうなぁと思ったさ。

血はザバザバ流れてたし体中どこもかしこも痛かったし変な地響きは聞こえてくるし倒れたまま指先一本動かねぇ。

クソくだらねぇ人生もここで終り、せっかく貯めた金も使い切れねぇじゃねえかくそったれ、こんなことだったら昨日の晩ケチらねぇでもっと高い酒飲んどくんだったぜ仕事に差し障るから明日にしなさいとか言いやがってミス・ウェンズデーめオレ達みたいな家業に明日なんてあるもんか、って思ったとこでよ。

声が聞こえやがった。

Mr.9、Mr.9、どこにいるの、返事しなさい、ってさ。

 

それぁオレの本当の名前じゃねぇさ。

親とか言うクソッタレからもらった名前はもっと別にちゃんとある。さっきあんたに名乗っただろ。

でもよ、でも。

オレぁ………あん時ほど、名前を呼ばれて、嬉しかったこたぁねえよ。

ああ、オレが呼ばれてるんだと心底思ったこたぁねえよ。

わかるか?わかんねえだろ、アンタには。

 

とにかく、あの瓦礫と爆発の中をミス・ウェンズデーはオレを助けに来た。

明日の祝杯の酒をおごるって約束したからね、あたしは約束を破らないのとか言いやがって、あのとびきり速いカルガモに乗って、オレを助けに来た。

もしカルガモがいなくっても、ミス・ウェンズデーはオレを助けに来ただろうよ。

そういう女だ。

 

それからずっと、オレとのペアを解消するまで、そういう女だった。

それからだって、そういう女だっただろうよ。

 

 

……これ以上細かく話さなくたっていいだろ?こんだけ聞きゃあわかっただろ、先生。

後のこたぁ勿体ねぇからオレの胸一つにしまっとくぜ、あしからず。

…アンタも大概しつっこいなぁ、そういうこたぁ言わぬが花ってモンだぜ。

 

おお。

50年もののグリッテン・オールドかよ。

酔わせて話させようって魂胆か、先生。

 

 

 

 いい女だったよ。とびきりだった。それ以上どう言い様があるんだよ。

 あんないい女見たことなかったよ、惚れてたさ、あったりめぇだろ?

 

 なんてぇのか………生き様が、美しい女だった。

 笑うなよ。

 本当だ。

 オレみてぇなクズにも、どっかのロクデナシにも、同じ場所に立って、同じ言葉で、同じ話を語ってくれるヤツだった。

 ずっと高い場所に居るみてぇなのに、気づくと普通に隣で手を握っててくれるような、オレ達と一緒に居ても高いところを目指すのをやめねぇような。

 本当はオレなんかのために命を賭けちゃいけなかったんだ。

 それなのにあの時命懸けで助けに来たんだ。

 わかるだろう。

 

 

 

 ああ…もう夜も更けたな。

 オレは帰るぜ、先生。

 

 ああ、いいいい。オレも久しぶりにあいつの話が出来て楽しかったしなぁ。

 けど、いいか先生よ、書くつもりだったら命懸けで書けよ。

 あいつらの話を書きたいと思うんだったら、出てくるやつら全員主人公くらいに思って書けよ。

 あの王女様の仲間だ、そういう奴等に決まってんだろ。

 アンタのほうがよくわかってんじゃねぇの?

 

 じゃあな。

 もう会うことも無いだろうが、元気でな、先生。

安らかな眠りの夜と、健やかで長い昼をあんたに。

 バイバイベイビー。

 

2007/06/26




 ミス・ウェンズデーの間もビビは間違いなくビビだっただろうなあというおはなし。Mr.9とはいいペアだったと思う。そして彼は結構男前だ。Mr.9のその後が気になるので表紙短期集中連載でやってくれないもんだろうかと思うけどうっかりストーリーで登場してもぜんぜんおかしくないからワンピースはほんとすごいマンガだ。