◆神様の庭◆《ダイ大/レオナ+ポップ》

 

「ゆめ?」

「そうなのよー。もうほんと最近、夢見が悪いったら」

 美貌の若い女王が愚痴る。

 時は夕刻に差し掛かったところ、優美なカーテンのかかった窓からは黄水晶のような色をした遅い午後の光が射し込んでいる。

 おやつには丁度いい時間だ。

 気の利くマリンがついさっき薫り高い紅茶と金色に焼けたマフィンを運んできて、女王と大魔道士は立て続けの執務にようやく一息入れることが出来た。

 まったく、春先は仕事が多い。

 まだ山と詰まれた書類をうんざりポップは見やる。

 賢者達の下読みと翻訳があるからまだこの程度で済んでいるのだ。様々な民族、土地から送られてくる書類はまずは規格を揃えるのが一仕事になる。

 紙面の追いすぎで疲れた眼を揉んで、夢がねぇ、とレオナが言い出したのだ。

「どんな夢だよ、姫さん」

「うーん。…なんかよく覚えてはいないんだけど。暗いような、明るいような…へんなゆめ」

 

 どこかを歩いているのよ。

 ずっと、ずっと、歩いてるの。

 そこは花が咲いてて、石畳が綺麗にモザイクなの。

 陽が射してるけどうす曇みたいに太陽は見えないの。

 

「そこを、ただ、歩いてく変な夢」

「へぇ」

「どこにも辿り着かないのよ」

 いっそどこかに着くんならいいのに、と何事も白黒はっきりさせたがるきっぱりした性格のレオナがぼやいた。

「……まあ、いいじゃねぇか。別に悪夢ってんでもないみたいだし。そのうち見なくなるさ」

「まあねぇ」

 紅茶を飲んでマフィンを一口齧り、レオナが頷く。

「夢はただの夢だけどね。あらこれ美味しい、ポップ君も食べなさいよ」

「ああ、喰う喰う」

 金色のマフィンは確かに美味しかった。

 薫り高いバター、こっくりと甘い砂糖の風味。

「ポップ君は夢とか見る?」

 レオナの質問にカップを傾ける手が一瞬止まった。

「……そういや、最近、見てねぇなぁ」

 頭脳労働で疲れてっからなぁ、と笑い混じりにいえばあら、そんなのあたしだってよとレオナがふくれる。

 二人きり、穏やかな午後の茶会はゆっくりと過ぎていく。

 

 夢は時間、空間、人の手の届かない領域。

 その中でいつも捜している。

 もうこの手の届く中にはいない人を、夢という入り口を通して、捜しつづけている。

 万の、億の中のたった一つの砂粒をよりわけるようなことだと知っていても諦められない。

 

 夢は旅。

 夢は扉。

 夢はかみさまだけが操ることのできる箱庭。

 

 ただ一つの可能性をその中に求めているのだと、誰にも言えず、ただポップは温かな紅茶と金色のマフィンを口に運ぶ。

 穏やかな午後が過ぎていく。

 

 

2007/06/01 了


…サイトでは初ダイ。おっそいな…!!原作その後。
これはもうちょっとひねれば長編になるような気もしております。うまいこと物語の神様が降りてきてくださるかどうか。
来年のオンリーには行く気満々なのでできるといいなぁ。