◆異端者の願い◆
《南国少年パプワくん/ロッド+マーカー》

 

 その白い指先で炎の蝶が紡がれる。

 酸素を糧にし完全に燃え盛る青の揺らめきの中で、時折ちらりちらりと紅い炎の舞い踊るその蝶を見ると、ロッドはいつも感嘆の念を覚える。

 人を殺すことを少しもためらわない指先が紡ぐ美しい蝶。

 ひらり、ひらりと。

 ちらり、ちらりと。

 優雅なそれに引き寄せられた誰かが手を伸ばせば、一瞬にしてその腕くらいは消し炭にしてみせる残酷な蝶。

 

 頬に醜い傷を作った美しい横顔。

 不思議なことに、この切れ上がった眦を持つ男の美貌は、その傷が出来てからよりいっそう凄みと美しさを増したように見える。

 

 明けかけた空に、そうして蒼く紅い炎の蝶を飛ばす男に、なあとロッドは声をかけた。

「なんで蝶なの」

 返答までにわずかに落ちる沈黙。

「意味などない」

「そうかぁ?お前のすることにはなんでもかんでもなんかしらありそうな気がするけどなぁ」

 すっと伸びた背筋、くっきりと影を作る横顔、天を指すように伸ばされた指先。

 その衣服は硝煙と土ぼこり、そしてわずかばかりの血に汚れ、足元には瓦礫と死体の山を踏み砕いている。

 夜明けは煤けていた。

 

「なあ」

「なんだ」

「お迎え、まだかなぁ。オレもう待ちくたびれちまったよ」

 彼らの隊長の乗ったヘリはまだ見えない。

 獅子舞サマの浪費癖のせいでガソリン代ねぇとかいわねえだろうな、来なかったらどうすんだよ、まったく冗談じゃねえなと饒舌にぼやいても彼はまったく相手にしてくれない。

 もとより返答がないことをロッドは気にもしない。

 この手のぼやきはお約束のようなものだ。

 ガンマ団を離脱してから、戦場で定刻通りに迎えが来たことなど皆無に近い。

 

 爆煙と土ぼこりに煤けた空の中、少しずつ蝶が遠ざかって行く。

 彼が何故その蝶を飛ばすのか知らない。

 その姿が何故蝶なのか知らない。

 

 人の魂は蝶になって飛んでいくのだという。

 そのか弱い羽根で万里を越える旅をするのだという。

 

 彼がなにに、誰に向かって蝶を飛ばしているのかロッドは知らなかったが、時折考えることはある。

 自分達は異端者だ。

 この世の正道のどこからかいつのまにかはぐれてしまった者達だ。

 同じようにはぐれた者を、どんな形であれ、心にかけるのはむしろ人として当然のことなんじゃないだろうか。そして炎を操る彼の、唯一の同族が、この空の下のどこかでまだ息災でいることをロッドは知っている。

 美しく紡がれた蝶があの青年への形に出来ない思いを運んでいるというのは、彼にその蝶の意味さえ問えない脆弱な自分の心が作り出した、いささかロマンチストすぎる思い込みだろうか。

 

けれど遠い空の下にそのくらいの心をかけなければ、自分達は、人としてすらいられないのじゃないかと時折ロッドは思う。

 人として、ひととして。

 

 

 立ち上がると靴の下で誰かの消し炭と誰かの切り裂かれた一部がぐちゃりと瞑れた。

「マーカー」

「ああ」

 遠い空からヘリの音が聞こえてきた。

 もう蝶は見えなくなった。

 あのヘリに乗って、自分達はまた、新しい戦場へ向かっていく。

 自分達が唯一生きているのだと信じられる場所へ向かっていく。

 

 ゆるやかに腕を一振りし、風をおこす。

 空気に、連なる大気に押され押されて、やがてこの風もあの青年のもとへ辿り着くだろう。

 

 花びらのひとひらなりと降らせてくれればいい。

 

2007/06/06 了





ロッドとマーカーの話、と言うよりはマーカーとアラシヤマの話のような。…つーか書いていて時折『PAPUWA』の再会シーンを思い出し、冷静になれ!自分!というノリツッコミが入ります。まだまだだな…ウマ子ちゃんくらいの美ジョンを育てんと…!!!あ、ロドマカも結構推奨。
そんでもってそののち