◆響く鐘の音◆
《南国少年パプワくん/シンタロー+アラシヤマ》

 

「時間ですえ」

 ヤツがそう言った。片目を隠した陰気な死神。

「はよ、立っておくれやす。間に合わなくなってまう」

 暮れかけた空には殷々と鐘の音が響いている。この街に時刻を告げるための鐘は、一見古びた趣ある塔の天辺にあるが、実体はオートマティックだ。
 鐘撞き男はおらず、仕組まれたプログラムが鐘を揺らす。

 そして高く澄んだ音が空に響き渡る。

 この街に住むものが死に絶えても。

 音を聴くものが無くとも。

「まさかとは思いますが、足腰立たんの?bP様?」

 心底馬鹿にした口調で死神が言う。

 死神の名はアラシヤマという。
 つい今朝まではただの陰気で厭味たらしいクラスメート、ちょっと変わった能力持ちとしか思っていなかった彼が、死神に変わったのはつい先ほどの事だ。

「……テメェ」

 ようやく出た声は嫌になるほど震えていた。

 コン、と咳をして言い直す。

「テメェ、……慣れてんのか」

「…あんた、ほんまになんも知らへんのやな。シンタロー」

 馬鹿にした口調。

 いいや、これはいっそ憐憫だろうか。

「マジック様に聞いとらんの。オレのお師匠はんは、特戦部隊のお人や」

「特戦部隊……」

「いくら人殺し集団ガンマ団の士官学校かて、そうぽこぽこ生徒殺すわけにいかんでっしゃろ。各クラス一人くらいは、オレみたいのがいるはずや」

 ひとごろし、とアラシヤマは言い放った。

 その言葉に感じた苦いものをシンタローは飲み下す。

「…お前みたいなの、って……」

 ふん、とアラシヤマは鼻で笑った。

 愚問だ。そんなことはシンタローもわかっていた。

「さっさと立て。シンタロー。合流時間まであと二十分だ」

 不意にがらりとアラシヤマの口調が変わる。

 空は暮れかけていた。鐘の音は余韻だけを残し大気に溶けた。

「それともここで死ぬか」

「…っ、冗談じゃ、ねえよ…ッ!」

 必死で全身に力を篭める。歯を食いしばり、動け、動けと脚に命ずる。

 この世界にたったいま産まれ落ちた獣の仔のように、よろよろと無様に立ち上がったシンタローを見て、ふっとアラシヤマが笑った。

 その服に、頬に、手に散った血潮にまったく似合わない笑みを浮かべた。

 つい先刻までこの街で、炎を使うことなく殺戮の限りを尽くして見せた死神が、くるりと踵を返しシンタローの前に立って走り出す。

 振り返ることのない背を追って、シンタローも走る。

 

 ふと気づけば自分の軍靴も、軍服も、血に染まっている。

 殺した敵の血に。

 

 この行為を目の前を走る死神のように、まるで呼吸をすることのようにやってのけることのできる日が来るのだろうか。

 いま目の前にあるこの血塗れの背は、いつかの自分の姿だろうか。

 

 けれどその日がもし来ても、きっといま耳の奥で鳴り響いている鐘の音は消えないに違いない。
 高く澄んだ鐘の音の響く中に飛んだ数多の人々の血飛沫も、名も知らぬ誰かの残した苦鳴も、舞を舞うように優雅に命という蝋燭を一つ一つ吹き消していった死神の姿も。

 なにひとつ忘れないに違いない。

 

 それらのことをすべて過去だと、記憶という棚の奥底で埃を被るままにしておけるようになったときこそ死神と呼び習わされるのだということをまだ知らず、シンタローは走る。

死神の後ろを走る。

 

世界に暗い夜の帳が降りようとしている。

 

 

2007/06/01 了


…という訳で初パプワでございます。ええと、荒み切った有様なのはまあ私のことですからいまさらです。

士官学校時代のシンタローとアラシヤマ。
人殺し集団に入るための士官学校って一体なんなんだろうか。
パプワは基本ギャグマンガですがその内実はというといろいろ怖しいことがたんとあるので、そんなところを掘り下げたい気がいたします。つーかどんだけアラシヤマに夢見てるかが問題です。
…あと2作くらい載せれば本の情報がなくてもイベントサイト様に繋いで許されるだろうか…。