◆銀の檻◆《遊戯王/海城》

 

「外せよ」

 ぎりぎりと軋む、獣のような声で男が唸る。

「外せ…外せ!!オレを出せよ!!」

 繰り返し吠え立てるその声は、獣の鳴き声なのかもしれなかった。

 顔を見れば同じことしか言わない。それでは猫や犬、牛や豚と変わらない。

伝わらない意思をただ闇雲に吠え立てるしかしない、無能な獣だ。

 肩に乗った銀の龍を撫でて、男は笑う。

「……聞き飽きたな」

「外せ!」

「オレの顔を見れば同じ事しか言わん。そろそろ別の鳴き声もたててみたらどうだ?」

 ぎらぎらと、太陽のような熱を篭めて金の髪の男が睨んでいる。その中には憎悪しか見つからない。

 海馬は冷笑した。

 ぐる、と鳴いた肩の上の銀の龍が、海馬の頬に頭を擦りつけた。

 灼いてしまおうか、と提案しているのだろう。

「やめておけ。喚けば戒めが解けるわけでもあるまい」

 そう言えば銀の龍は気分を害したようにギャアと鳴いた。金色の男を戒める銀の鎖、銀の檻は、呪いを篭めた神聖銀を彼の炎で焼いて鍛え上げたものだ。

 解けるわけが無い、と銀の龍は文句を言う。

「わかっている。……せいぜい足掻け。獣」

「出せ…!!」

 シャラン、とぶつかり合った銀の鎖が、猛る吠え声に不似合いな音を立てて鳴った。

 銀の鳴る音は美しい。

 どんな獣でも、ひと時鳴く声を休めて聞き入ってしまうと言われるほどに。

 その戒めは強く、彼のうちに宿った獣にも解けない。

 くるりと踵を返し、海馬はその顔に浮かぶ表情をつながれて吠える城之内には見せなかった。

 

 

 

 わりぃ、と城之内が掠れた声で謝る。

「オレ……また、暴れたか」

「暴れてなどおらん。…まあ少々、鳴き声がうるさかったがな」

「鳴き声っていうな」

 嫌そうな顔をするのに、犬よりはいい声だぞとさらに付け加えると城之内はしかめ面をして舌を出す。

 開いた窓から涼しい夜の風が吹き込んで2人の頬を撫でていった。

「喉がいてえよ……ったく、人の体好き勝手しやがって」

 毒づく城之内の眼には、月が宿っている。

 彼を宿主に選んだ獣は、太陽の眷属だ。日中、陽が輝きを増すほどに力を持ち、日没と共に眠りにつく。月光の下にあるときだけが、城之内の時間だ。

 お月さんも嫌いじゃねーけどよ、と城之内がいまいましげに呟いた。

「いいかげん、普通に太陽が見たいぜ……」

「無理な相談だな」

「……なんでだよ」

「言っただろう。貴様に取り付いた魔は、最も力在る一族の裔だ。人ごときが抗えるものか」

「やって見なきゃわかんねーだろ!テメェだって一匹連れてるじゃねーか」

「ふん。貴様ごときとオレをいっしょにするな」

 海馬の肩にとまっている銀の龍を城之内は一瞥した。

 銀の龍は光の眷属。

 太陽とは似て非なる性質を持つ。

「……見てやがれ。ぜってー、いつか、取り戻してやる」

 ふてぶてしい顔で城之内が笑う。

 その眼に閃くのは炎のような闘志で、日中の憎悪に煌く金の眼も悪くは無いがやはりこちらのほうがふさわしい。

「見ていてやろう」

 海馬は笑う。

 昼も、夜も、この手の中にあるのは心地いい。

 けれどそれではいつかは飽くときが来るだろう。

 この、決して折れない不屈の闘志を持つ男だからこそ、手に入れたいと願ったのだ。

「見ていてやろう。貴様が、己の体と心を取り戻すところを」

「おお、見せてやるさ」

 眼に月を宿した男が笑う。

 夜の下だというのにそれは太陽を思い起こさせて、燃える狼の姿をした太陽の眷属が彼を選んだのも然りと思わせた。

「…おい。海馬?」

 その身体を両腕に抱く。

 不意の仕草に戸惑った城之内が、彷徨った両手をやがて海馬の背に置いた。

「おい?」

 太陽はまた昇る。

城之内の中の獣が暴れだすだろう。

 

 決して留められない時を抱いたまま、やがて地平の果てに燃える太陽が昇るのを、ただ彼らは待ちつづけた。

 

 

 2007/03/20


 …なんか長い話の序章のようです。つくづく私は短編を書くのが上手くないな…!!まあ短編にも掌編にもならないような短さですが。
 こののち城之内はレッドアイズと契約を結び炎の狼を従え自分の昼を取り戻すのですよ。そして闇の龍を見た銀の龍は一目惚れをしてしまうわけですが互いの性質の違いゆえに添い遂げられないアンビバレンツ。
 恋に悶えるブルーアイズのために海馬と城之内はよっしゃ一肌脱いでやろうじゃねぇかと伝説の宝玉の探索に乗り出し……スンマセン口先からでまかせです。