◆醜い色をした恋◆《ワンピ/ゾロサン》

 

 

 

 




 

「ヤリスギでくたばれ、この腐れ苔め」

 通り過ぎて行った背中にそう呟いてやったら、やつは振り返りもせずひらりと手を振った。

 ちくしょうめ。

 






 

 大きな港町には大抵花街がある。

 チョッパーやウソップ、ルフィはいざ知らず、ゾロとサンジは時折その華やかな夜の中に紛れ込む。

 女の柔らかな髪に、体に触れ、暖かな体温を感じて眠ることが、サンジは嫌いではない。

 いや。

 ぶっちゃけ言ってしまえば、大好きだ。

 女性というものはどうしてああも素晴らしいのかと、しみじみとサンジは感嘆する。

 紡がれた絹のように美しい髪も、触れると吸いつくようにやわい皮膚も、強く握れば折れてしまうような骨格も、そして耳元で囁かれると思わずとろけてしまうような甘い声も、皆むさくるしい男にはありえないものだ。

 サンジはそのすべてを賛美している。

 さらに付け加えれば、同じ船に乗り合わせる女性二人の、しなやかな鋼のような意志も、だ。

 まったくもって女性という存在は素晴らしい。

 男など足元にも及ばない。

 みな酔いつぶれるかあるいは部屋に引き揚げて、ゾロと二人っきりになったメリー号での宴会の夜、この無作法な男にも女性の素晴らしさを教えてやろうと、サンジは言葉を尽くしまくった。

 ぐびりぐびりと無言で酒を飲んで、聞いてるのかこの野郎とサンジが肩を小突くと、ゾロはぽつりと言った。

 

「ヤツらは怖ぇ」

 

 怖いとか言ってんじゃねえよクソ野郎、素晴らしいレディに対してなんて言い草だよ。

 ぎゃんぎゃんと怒鳴ったサンジに、うるさそうにかぶりを振って、違う、とゾロは付け加えた。

 

「ヤツらは怖ぇ。……すぐ、壊れる」

 

 さらに怒鳴ろうとしていたサンジは口をつぐんだ。

 壊れる、と言ったゾロが許せないものを睨むように猛々しい顔をしていたので。

 ヤツら、といったその言葉はもっと具体的なものを示しているようにも思えたのだけれど、訪ねることはしなかった。

 ここは海の上。

 自分たちは海賊で、それぞれの過去を持っている。

 自ら口火を切らなければ話せないことなどいくつもあるだろう。

 いくつも。

 

 

 


 細い女の肩を抱いて遠ざかる背をサンジは見つめる。

 ここは大きな港町で、手折るべき美しい花は枚挙に暇がない。

 その中の一輪を選んだ剣士が、壊れるといったものの肩を抱いて少しずつ遠ざかり、花街の光と闇に紛れる。

 不意に衝動が喉元まで突き上げた。

 壊れたものがなんだったのかを聞きたいと、餓える様な強さでそう思った。

 それは海の岩山で暗い水面に水を求めて痩せこけた手を伸ばしたのを不意に思わせるような激しさで、サンジは強く奥歯を食い縛った。

 

 踵を返す。

 そして歩き出す。

 視線を夜の闇に据えて、喧噪の中に紛れた。

 

 

                                                                                 10/01/31

久々の100題。怠け者でいかんです。
ゾロが考えない分サンジはぐるぐるしてしまうといい。
ぐるぐるだからね!